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買いたい!持ち主不明や相続人なしの隣地・空き家を購入することができる「所有者不明土地管理制度」とは?【弁護士が解説】

この記事を書いた人

弁護士 荒井達也

日本弁護士連合会の専門チームのメンバーとして所有者不明土地管理制度の制定に関与。テレビや新聞等の取材対応や専門書の出版等を通じて国庫帰属制度や負動産問題の解決方法を発信。セミナー講師等も多数務める。

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目次

所有者不明土地管理制度でお隣の土地が購入できる!?

所有者不明土地管理制度が2023年4月からスタートしました。

この制度を利用すれば、一定の条件下で、欲しいお隣の土地を購入・取得することが可能になりました。

記事執筆者(弁護士荒井達也)も、この制度を利用して、お隣の土地の取得する手続を行っています。

本記事では、施行開始後の制度の運用状況等も踏まえながら、所在等が不明のお隣さんの土地の取得する方法を解説します。

なお、本記事のテーマについては、YouTubeでも解説していますので、活字より動画がよいという方はこちらをご覧ください。

所有者不明土地管理制度の利用条件(要件)

まず、制度を利用できるかどうかを確認する必要があります。

所有者不明土地か否か?――必要な調査で所有者が不明か?

所有者不明土地管理制度が利用できる土地は、「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地」です(民法264条の2第1項)。

この「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地」とは、必要な調査を尽くしても、所有者の特定ができない土地又は所有者の所在が不明な土地をいいます。

もっとも、どのくらい調査をすれば、必要な調査を尽くしたといえるかは、ケースバイケースです。

(事案によっては、所有者(登記名義人)の登記上の住所を訪問する必要性も出てくるでしょう。)

ただ、これだけだと抽象的でわかりにくいので、イメージしやすいように、例を挙げると、次のような土地が該当します。

  1. 不動産登記簿及び住民票上の住所等を調査しても、その個人の所在が明らかでない土地
  2. 登記名義人の個人が死亡し、その相続人が相続放棄している等の事情で、相続人の存否が不明な土地
  3. 登記簿や住民票等の公的資料により、主たる事務所や代表者や住所等を調査してもその法人の事務所及び代表者の所在等が明らかでない土地

個別のケースで、どの程度の調査をすればよいか悩む方は、弁護士等に相談してください。

なぜなら、弁護士等は、裁判で相手方が行方不明の場合等に公示送達という手続を行います。

その際に必要になる調査と、所有者不明土地管理制度で必要な調査が似ているからです。

なお、施行開始後の制度運用を踏まえた、執筆者の感覚ですが、この要件は、ありとあらゆる調査を徹底的に行う必要があるという厳しいものということはありません。

住民票等の公的記録上で所有者不明が確認でき、また、登記名義人宛の不達の郵便物があれば、必要な調査を尽くしたと判断してもらうことが多い印象です。

なお、注意してほしいのは、公的記録(住民票や戸籍)を調査すると、最新の住所や生存する相続人が判明する場合があるということです。

執筆者の拙い経験上、公的記録の調査で所有者が判明することは決して少なくありません。

もちろん、所有者が特定できれば、交渉のうえ、直接、所有者から購入することも可能になります。

もっとも、相続人が多いと(例:20~100人になるというケースもあります)、交渉も円滑に進みません。

短期でスムーズに進めたい方は、所有者調査の結果、所有者が判明するかもしれない、判明した結果、相続人が多数存在するかもしれないという点も加味しながらスケジュールを立ててください。

管理の必要性

次に、所有者不明土地管理制度を利用するためには、所有者不明土地管理命令を発令する「必要がある」ことが要件になります。

所有者不明土地制度は、所有者不明土地という個人の財産を裁判所の管理下に強制的に入れる制度です。

裁判所が個人の財産権に介入するという側面があるため、それを正当化される状況が必要になります。

土地の管理状況等に照らし、所有者不明土地管理人による管理を命ずることが必要かつ相当であることが必要とされます。

例えば、所有者不明土地を誰も管理していないときは、所有者不明土地管理命令を発する必要があると考えられます。

他方で、既に、不在者財産管理制度や相続財産管理制度等で裁判所の管理下に入っている場合は、所有者不明土地管理命令を発する必要は基本的に認められません。

執筆者の拙い経験上の感覚ですが、この要件も、あまり厳格ではない印象です。

他に管理者がいなければ、基本的に必要性は認められるということではないかと思います。

不動産は放置すれば危険な物という側面がありますので、所有者不明土地状態で管理者がいなければ、発令すべきという考えが背後になるのかもしれません。

申立資格(利害関係)

次に、所有者不明土地管理制度を利用するためには、制度を利用しようとする方に、申立資格(利害関係)が認められる必要があります。

この要件が一番問題になりやすい要件です。

では、どのような者が利害関係人に当たるでしょうか。

一般論としては、個別の事案に応じて、所有者不明土地管理命令の制度趣旨に照らして裁判所において判断されるということになります。

ただ、これでは抽象的ですので、具体例を示すと以下のとおりです。

  1. 土地が適切に管理 されないために不利益を被るおそれがある隣接地所有者
  2. 土地の共有者の一部が不特定又は所在不明である場合の他の共有者
  3. 土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者
  4. 時効等で土地の所有権の移転の登記を求める権利を有する者
  5. 民間の購入希望者について、その購入計画に具体性があり、土地の利用に利害があるケース

お隣の土地を取得したいというケースでは、①または⑤により、申立資格が認められるケースがあります。

もっとも、無条件で制度の利用が認められるわけではありません。

申請が却下されないように事案を丁寧に整理することが弁護士の腕の見せ所でもあります。

執筆者の拙い経験上の話ですが、単に隣の土地が欲しいという理由で申し立てるのではなく、所有者不明土地が隣地に及ぼしている害悪があれば、それを記載します。

この制度の趣旨は、所有者不明土地の効率的かつ適切な管理の実現や円滑・適正な利用を図ることにありますから、民間の方からの申立てでも、具体的な害悪があれば、裁判所の管理下に入れようという判断に繋がりやすいと考えます。

典型的なものとしては、お隣の所有者不明土地から、枝が伸びていることや不法投棄があり、自分の土地にも被害が拡大するおそれがあることなどです。

他にも、お隣の所有者不明土地との境界が不明確であれば、境界を確定する必要があるということや売却にあたって分筆が必要になるという理由も利害関係を基礎づける事情になり得ます。

また、他に利害関係を有している方がいれば(例えば、反対側の隣地所有者等)、その方と一緒に申立てを行うということも一案です。

いずれかに利害関係が認められれば、申立てが却下される可能性を下げることができます。

予納金

最後に、予納金について説明します。

裁判所で所有者不明土地管理命令の審査が終わって正式発令になると、予納金の納付を命じられます。

これは、裁判所の管理下で発生する所有者不明土地の管理費を申立人に納めさせるという趣旨のお金です。

主には、管理命令の発令後に裁判所から派遣される管理人(弁護士等)に支払われるお給料に充てられます。

この予納金は、最終的に余れば、返ってくる可能性があります(例:まとまった額の購入代金を払った場合)。

もっとも、制度上は先に予納する必要があります。

いずれにせよ、問題は、予納金がいくらになるか?です。

建前としては、裁判所が事案ごとに個別に判断するということになります。

そのうえで、執筆者が制度開始後の運用を見聞きする限りでは、予納金は15万~40万円程度になることが多い印象です。

もっとも、所有者不明の空き家を解体しないといけない場合など明らかに管理費が多額になる場合は、解体費等の追加費用の予納も求められる可能性があります。

ポイントとしては、裁判所の管理下に入ったあとに、必要な日常的な管理は申立人で代行するなどの意向を説明し、管理費があまりかからないことを説明してください。

裁判所があまり管理の手間がかからないと判断すれば、予納金が低くなる可能性があります。

なお、裏技というと大げさですが、成功確率を高める方法として、申立人の方で、所有者不明土地管理人の候補者を用意して、その候補者の方に報酬は○万円以下でOKですという同意書を提出させる方法があります。

このような同意書があれば、○万円以上の報酬は不要になりますから、予納金も低く抑えられます。

もっとも、執筆者が知る限りでは、こういった申立人が管理人候補者を推薦する方法(いわゆる申立人推薦方式)を認めていない裁判所が多いため、この方法が認められるのは例外的な場合と考えてください。

(例えば、申立人推薦方式が認められうるケースとしては、自治体等の公共団体が申し立てる場合が挙げられます。)

所有者不明土地管理制度の手続

制度を利用するにあたって、どのようなスケジュールで進むかを知るためには、手続の流れを押さえて置く必要があります。

結論としては、以下に説明する手順を踏むため、売却までには、どんなに短くても最低3ヶ月は見てほしいです。

できれば、トータルで半年から1年ほど掛かるという腹づもりをしておくと良いです。

申立て・証拠提出

申立書

まず、裁判所に提出する申立書とが必要になります。

書式は、東京地方裁判所が公表しているものがあるため、こちらを使ってください。

所有者不明土地(建物)管理命令申立書(PDF)

東京地方裁判所以外でも、東京地方裁判所が公表している書式を利用すれば、問題はありません。

添付書類

次に、以下の添付書類が必要になります。特に重要なものは太字にしました。

・ 所有者・共有者の探索等に関する報告書(PDF)
・ 所有者不明土地・建物に係る登記事項証明書
・ 固定資産評価証明書(取得できない場合は不要)
・ 不動産登記法14条1項の地図又は同条4項の地図に準ずる図面の写し
・ 土地(建物)の所在地に至るまでの通常の経路及び方法(土地(建物)の住居表示を記載する。)を記載した図面
・ 土地(建物)の現況調査報告書又は評価書(保有する場合)
・ (登記されていない場合)土地についての不動産登記令2条2号に規定する土地所在図及び同条3号に規定する地積測量図
・ (登記されていない場合)建物についての不動産登記令2条5号に規定する建物図面及び同条6号に規定する各階平面図
・ 所有者不明土地・建物について、適切な管理が必要な状況にあることを裏付ける資料(写真を撮影した場合は台紙に貼り、撮影日時、撮影者を明記してください。適切な管理が必要な状況がわかるように、適宜、撮影位置等を工夫してください。)
・ 所有者不明土地・建物の所有者の戸籍謄本、戸籍附票又は住民票(戸籍や住民票がない場合は、登記記録上の住所の不在籍証明書及び不在住証明書)
・ 不明の事実を証する資料(不明者あての手紙などで「あて所に尋ね当たらず」の理由が付され返送されたもの(コピー))
・ 所有者不明土地・建物を適切に管理するために必要となる費用に関する資料(業者による簡易な見積りをした結果等)
・ その他参考となる資料
・ 申立てを理由づける事実についての証拠書類の写し

なお、以下の点がよく問題になりますのでツイートをご確認ください。

申立てに必要な費用等

申立てに掛かる費用は以下のとおりです。

まず、収入印紙 が、1筆ごとに1,000円掛かります。

郵便局で必要な分を購入して同封してください。

次に、郵便切手 6,000円分が必要になります。

内訳が決まっており、500円×8枚、100円×10枚、84円×5枚、50円×4枚、20円×10枚、10円×10枚、5円×1枚、2円×10枚、1円×10枚が必要になります。

また、先ほど述べた予納金が必要になります。

ただし、予納金は裁判所の審査が終わった後に裁判所から個別に連絡があります。

最後に、登録免許税という税金が必要になります。

こちらは裁判所の管理下に入ったことを不動産登記に示すための手続に要する税金です。

この登録免許税は、不動産の価額の1000分の4となりますが、具体的な金額は裁判所から指示があります。

申立先

申立先は、土地・建物の所在地を管轄する地方裁判所です。

裁判所の審査

裁判所の審査は、早ければ、1~2週間ほどで審査が終わります。

もっとも、まだ開始したばかりの制度ですので、1ヶ月以上待たされることもあります(特に地方の支部裁判所に申立てをする場合)。

私が制度開始直後に申し立てた案件の中には、2か月ほど審査に時間を要した案件がありました。

そのため、申立書を送ってから2週間くらいで一度、審査状況を確認することをおすすめします。

なお、多くの場合、裁判所から質問があったり、追加書類の提出を求められる場合があります。

こういった要請があった場合は速やかに対応してください。

官報公告

管理命令を発令し、管理人を派遣する前に、裁判所の方で官報公告を行います。

すなわち、官報という国の広報誌を通じて不明になった所有者に呼びかけをするのです。

(ただ、実際は出てこないことがほとんどです。)

この官報公告の期間が1ヶ月から2ヶ月ほどあります。

そのため、申立てから管理人が派遣されるまでは最低3ヶ月ほど掛かると考えてください。

管理命令の発令(管理人との売却交渉)

管理命令が発令され、裁判所から管理人が派遣されてきたところで、ようやく売却交渉に入ります。

管理人は、売却にあたって、裁判所から売却の許可を得る必要があります。

そのため、管理人が売却許可を得やすいように以下の点を整理することをおすすめします。

  1. 売却の必要性
  2. 売却先の相当性
  3. 売却金額の妥当性

売却の必要性

土地が所有者不明でも、あくまでも個人(国民)の財産です。

それを裁判所の権限で売却するわけですから、売却の必要性を示すことが大事です。

例えば、周辺に害悪を及ぼしており、継続的な管理が必要になる点や固定資産税の滞納が続いている点など、現状を維持するより売却が望ましいという事情を整理してみてください。

売却先の相当性

売却が必要だとしても、売却先として相当といえる必要があります。

例えば、反社会的勢力に売却することは裁判所としても許容できません。

必要あれば、反社会的勢力に該当しない旨の誓約書を提出しましょう。

また、売却後の管理計画など、自分に売却してくれれば、将来問題なく管理するという点を整理することが大事です。

売却金額の妥当性

もし、将来、不明の所有者が出てきた場合、土地の代わりに代金を受け取ることができます。

そのため、売却する場合は、相応の代金を支払う必要があります。

客観的にいくらが妥当なのかを明確にすることは難しいのですが、過疎地域であれば、固定資産評価額が参考になります。

また、市街地等であれば、不動産会社が出す査定書なども参考資料になるでしょう。

地価が高い場合は、路線価や不動産鑑定を参考にする場合もあるでしょう。

裁判所が妥当と判断できる算定方法や根拠を示す事が大事です。

なお、金額を抑える方法としては、売主(不明所有者)には責任追求をしないという特約を入れる方法もあります(契約不適合責任免責条項といいます。)。

この他にも境界明示義務を免除するなど、できるだけ売主の義務や責任を免除してあげると、それが金額を下げる理由にもなりますので、こういった点を意識しながら交渉することをおすすめします。

売却(許可、契約、名義変更)

管理人と売却交渉が終わると、裁判所の許可→契約→名義変更(登記)という流れで土地の購入手続が進みます。

土地の購入により管理人の管理対象の不動産がなくなれば、売却代金等を供託して、管理命令が取り消されます。

そこで予納金が余っていれば予納金が返ってきます。

ただ、予納金の返還は最後ですので、すぐに返ってくると思わず、返ってくればラッキー程度に考えておくとよいです。

弁護士に頼む場合――弁護士費用30万程度

以上の手続をご自身で対応いただいても、もちろんOKです。

もっとも、法律的な手続が難しく、弁護士に依頼したい場合もあると思います。

弁護士に依頼する場合、弁護士費用が掛かります。

弁護士費用の金額は弁護士によって、違いますが、当職は、【30万円】で所有者不明土地の所有者調査や所有者不明土地管理命令の申立てまでを対応しております(戸籍取得費用等の実費は別)。

初回30分の無料相談も受け付けておりますのでお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

弁護士 荒井達也

日本弁護士連合会の専門チームのメンバーとして所有者不明土地管理制度の制定に関与。全国で所有者不明土地管理命令の申立てや群馬県内の所有者不明土地管理人を務める等、所有者不明管理制度の実務について経験多数。テレビや新聞等の取材対応や専門書の出版等を通じて国庫帰属制度や負動産問題の解決方法を発信。セミナー講師等も多数務める。

詳細プロフィールはこちら

参考資料

法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」 
村松秀樹他「Q&A令和3年改正民法 改正不登法 相続土地国庫帰属法」(きんざい)
荒井達也「Q&A令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響」(日本加除出版)

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