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相続土地国庫帰属制度とは?要件・費用・申請手続きを弁護士が徹底解説

相続した土地を手放して国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属制度」。一方で、「売れる土地しか対象にならない」「山林や農地は使えない」「申請前に高額な測量が必須」といった情報を見て、最初から諦めている方も少なくありません。

この制度には確かに利用条件があります。しかし、傾斜がある、木が生えている、道路に接していないといった事情だけで、直ちに利用できなくなるわけではありません。この記事では、動画「相続土地国庫帰属制度を弁護士が徹底解説」の内容をもとに、利用できる人、引き取れない土地、費用、申請前の確認事項を整理します。

この記事の結論

  • 基本的に、相続または相続人への遺贈によって土地を取得した人が利用できる制度です。
  • 建物、権利関係、通路利用、境界争いなど、入口の段階で対象外となる土地があります。
  • 崖、樹木、埋設物、袋地、森林などは、存在するだけで一律に不承認になるのではなく、通常の管理に過分の費用・労力がかかるかが問題になります。
  • 申請には1筆1万4,000円の審査手数料がかかり、承認後は10年分の標準的な管理費用を考慮した負担金を納付します。
  • 申請前に法務局へ相談し、登記・現地・境界・継続的な費用を確認することが重要です。
弁護士 荒井達也

この記事の解説者:弁護士 荒井達也

荒井法律事務所代表、合同会社負動産の窓口代表社員。相続土地国庫帰属制度の制定に関わり、負動産・所有者不明土地・空き家問題に取り組んでいます。

荒井達也の詳しいプロフィール・実績

目次

相続土地国庫帰属制度とは

相続土地国庫帰属制度は、相続などで取得した不要な土地について、法務局の審査と法務大臣の承認を経て、所有権を国庫へ帰属させる制度です。2023年4月27日に始まりました。

相続放棄とは異なり、預貯金や自宅など必要な財産を相続しながら、一定の土地だけを対象にできます。国へ引き渡した後は国有地となるため、民間の引受人を自分で探し、その人が将来も適切に管理するかを見極め続ける必要がない点が大きな特徴です。

最大のメリットは「国が引き取る安心感」

売却が難しい土地にも、民間の引取サービスや個人間譲渡という選択肢はあります。しかし、「引き取る」と持ちかけて別の土地を取得させる、分かりにくい名目の費用を請求する、といったトラブルには注意が必要です。契約後、引受人から解除や損害賠償を求められる可能性もゼロではありません。

国庫帰属制度では、定められた要件と手続を満たせば、相手方は国です。早さや安さだけでなく、将来の紛争をできる限り避けて確実に手放したい人にとって、検討価値があります。

時間と費用は、持ち続ける負担と比較する

審査には時間がかかり、手数料と負担金も必要です。ただし、土地を持ち続ければ、固定資産税、草刈り、相続登記、倒木・崩落などへの対応が将来も続きます。急いで不確かな相手へ譲ることによる危険もあります。

そのため、制度の費用だけを見るのではなく、今後10年、20年保有した場合の管理費とリスクを含めて比較する必要があります。

動画撮影時点の申請・承認状況

動画では、法務省が2024年2月26日に公表した、同年1月31日までの統計を紹介しています。申請1,661件のうち、当時審査が完了していた127件について、117件が承認されていました。承認率にすると約92.1%です。

もっとも、これは制度開始直後の一定時点の統計であり、申請中の案件や取下げ案件を含む全申請の「最終成功率」を示す数字ではありません。現在の件数は法務省の最新統計で確認してください。

動画のポイント:要件の数だけを見て「ほとんど承認されない制度」と決めつけるのは適切ではありません。一方、土地ごとの審査があるため、過去の承認割合だけで自分の土地も承認されるとは判断できません。

利用条件は「人・土地・お金」の3つ

条件 確認すること
相続または相続人への遺贈により土地を取得した人か
土地 法律が定める却下・不承認事由に当たらないか
お金 審査手数料と、承認後の負担金を支払えるか

誰が申請できるのか

基本的に申請できるのは、相続または相続人への遺贈により土地の所有権を取得した相続人です。親が売買で取得した土地でも、それを子が相続したのであれば、子は申請を検討できます。

一方、自分が直接売買や通常の贈与で取得した土地は、その取得だけを理由に制度を利用することはできません。登記事項証明書の「原因」に相続と記載されているかは、最初に確認したい項目です。

共有地では、共有者の中に相続などで持分を取得した人がいれば、一定の場合に共有者全員で申請できます。ただし、共有者全員の協力が必要になるため、面識のない多数の共有者がいる私道などでは実務上の負担が大きくなります。

入口の段階で申請できない土地

次のような土地は、原則として承認申請の段階で対象外となります。これらは、詳細な管理コストの審査へ進む前に確認される重要項目です。

主な要件 具体例・確認点
建物がある 住宅、倉庫など。現地に建物がなければ、登記だけ残っている場合でも土地自体の要件とは別に考えられますが、建物滅失登記は必要です。
担保権・使用収益権がある 抵当権、賃借権、地上権など。登記されていない農地の貸借なども確認が必要です。
他人が利用する土地 現在通路として使われる土地、墓地、境内地、水路など。
特定の有害物質で汚染 土壌汚染対策法上の有害物質による汚染がある土地。
境界・所有権に争いがある 隣地所有者と境界認識が具体的に食い違う、第三者が所有権を主張している場合など。

建物は、申請前に壊せばよいとは限らない

建物がある土地は申請できません。しかし、解体費が高額で、建物を壊した後に住宅用地の税負担が変わる可能性もあります。まずは建物付きのまま引き取る人がいないか、空き家バンクなども含めて検討する方がよい場合があります。

解体して制度を利用する場合も、先に法務局へ相談し、土地の他の要件を確認してから進めることが大切です。建物には当たらない小屋や工作物でも、管理・処分に過分の費用や労力がかかる場合は、別の不承認事由になり得ます。

貸している農地は、耕作者と丁寧に話し合う

農地を地域の農家へ貸している場合、使用収益権の解消が必要になることがあります。登記に賃借権が載っていなくても、農業委員会への照会や現地調査で利用状況が確認されます。

動画では、「国庫帰属を考えているため利用を終えてほしい」と伝えたことをきっかけに、耕作者が引取りを検討する場合もあると紹介しています。現在使っている人が取得できれば、制度を使うより負担が少ないこともあります。押し付けるのではなく、事情を説明して意向を確認することが大切です。

古い抵当権や共有私道も登記で確認する

明治・大正期などの古い抵当権が田畑や山林に残っていることがあります。金額がわずかでも、登記が残る以上は対応が必要です。差押え、仮処分、買戻しに関する登記などにも注意します。

別荘地や宅地では、近隣住民と共有する道路持分を本人や相続人が把握していないこともあります。公図で細長い土地を確認し、必要に応じて登記事項証明書を取得してください。実際に地域の通路として使われていれば対象外となる可能性があります。

状況に応じて不承認となる土地

次の土地は、該当する物や地形があるだけで自動的に不承認になるわけではありません。国が通常の管理をするうえで、過分の費用・労力を要するかが具体的に審査されます。

1.危険な崖がある土地

動画では、制度上問題となる崖について、高さ5メートル以上、勾配30度以上という基準に加え、周辺の人や道路などへ被害が生じる可能性や、擁壁工事などの必要性が検討されると説明しています。

したがって、山に傾斜があるだけで直ちに利用できないわけではありません。ハザードマップや急傾斜地崩壊危険区域を確認し、必要に応じて都道府県・地方整備局などの砂防担当部署へ相談します。

2.管理の妨げになる地上物がある土地

放置車両、倒壊のおそれがある工作物、周囲へ危険を及ぼす樹木、管理が必要な果樹、周辺へ広がる竹などが問題になります。一方、宅地に木がある、森林に通常の樹木が生えているというだけで対象外になるわけではありません。

重要なのは、その物を放置すると危険や被害が具体的に生じるか、撤去・管理に大きな負担がかかるかです。

3.地下に埋設物がある土地

産業廃棄物、建物の基礎やコンクリート片、古い浄化槽・井戸、大きな石などがあり、除去に多額の費用が必要な土地は不承認となる可能性があります。

通常は、すべての申請者が掘削調査をして「何もない」と証明するわけではありません。ただし、掘り返した跡、過去の建物、埋蔵文化財包蔵地など、埋設物を疑う事情がある場合は審査が慎重になります。

4.現地へ行けない土地や継続費用がある土地

道路に接していない、いわゆる袋地でも、それだけで不承認とは限りません。実際に他人から通行を拒まれ、土地へ到達できないなど、管理に支障がある場合が問題になります。

また、別荘地の管理費、土地改良区の賦課金、水利費など、所有者に継続的な金銭負担が発生し、国へ移った後も負担が続く土地には注意が必要です。特に農地は、固定資産税以外の支払いがないか、土地改良区や農業委員会へ確認します。

5.追加の整備が必要な森林など

土砂崩落、地割れ、病害虫などにより周囲へ具体的な被害を与えるおそれがあり、相応の工事や対応が必要な土地は不承認となる可能性があります。

森林では、国に帰属した後に追加的な造林・間伐・保育が必要かが問題になります。相続した山が森林整備計画の対象地か市町村へ確認し、判断が難しい場合は森林組合や森林担当部署へ相談すると状況を整理しやすくなります。

境界は「高額な確定測量が必須」とは限らない

境界について最初から土地家屋調査士による確定測量が必須、という制度ではありません。申請者が認識する土地の範囲を図面や写真で示し、現地で確認できるようにすることが基本です。既存の境界標、地形、工作物などを利用できない場合、目印を設置する方法もあります。

法務局は、提出資料と現地が合うかを確認し、必要に応じて隣接所有者へ通知します。隣接所有者から境界について具体的な異議が出れば、話合いや資料の補正が必要です。

自分の判断だけで境界杭を設置し、隣地を侵害してはいけません。境界が分からない、隣地所有者と認識が違う、急斜面で現地確認が難しい場合は、法務局や土地家屋調査士などへ相談してください。

申請にかかる費用

審査手数料は1筆1万4,000円

申請時には、土地1筆につき1万4,000円の審査手数料を納めます。この手数料は、申請を取り下げた場合や、却下・不承認となった場合も返還されません。

承認後は負担金を納付する

承認された場合は、国有地の種目ごとに、10年分の標準的な管理費用を考慮して算定される負担金を納めます。土地の種類、面積、所在状況によって金額が変わることがあります。

司法書士、行政書士、弁護士などへ申請書類の作成や相談を依頼する場合は、別途専門家費用がかかります。専門家へ依頼するかどうかは、土地の数、権利関係、境界や現地確認の難しさに応じて判断します。

申請前に確認したい8項目

  1. 土地を相続・遺贈で取得したことを示せるか
  2. 共有者がいる場合、全員の協力を得られるか
  3. 現地に建物や倒壊のおそれのある工作物がないか
  4. 抵当権、賃借権、差押えなどがないか
  5. 通路、墓地、水路などとして他人に利用されていないか
  6. 境界の位置を現地で示せるか、具体的な争いがないか
  7. 崖、樹木、竹、残置物、埋設物、接道の状況はどうか
  8. 管理費、水利費、土地改良区賦課金など継続的な支払いがないか

いきなり申請書を提出するのではなく、資料をそろえたうえで管轄法務局の事前相談を利用すると、問題になりそうな点を整理できます。隣接所有者や現在の耕作者には、法務局から連絡が来る前に事情を説明しておく方が、話合いが進みやすい場合もあります。

まとめ:条件の名前だけで諦めず、土地の実態を確認する

  • 国庫帰属制度は、相続などで取得した不要な土地だけを国へ引き渡せる制度
  • 建物、権利関係、他人の利用、土壌汚染、境界争いは入口で重要な確認事項
  • 崖、樹木、埋設物、袋地、森林は、存在だけでなく管理負担の程度が審査される
  • 農地では水利費・賦課金、山林では追加的な森林整備の必要性に注意する
  • 申請前に登記と現地を確認し、法務局へ相談する

山林だから、農地だから、傾斜地だからという理由だけで、最初から対象外と判断する必要はありません。一方で、土地ごとの具体的な状況を確認せずに申請すると、返還されない手数料や準備の負担が生じます。国庫帰属制度と、隣地所有者への譲渡、民間売却などを比較し、自分の土地に合う方法を選んでください。

参考資料

※本記事は動画の内容と法務省の公表資料をもとに、一般的な情報として整理したものです。制度の要件・運用・統計は変更されることがあります。個別の土地については、管轄法務局や専門家へご相談ください。

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