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相続放棄後も不動産の管理義務は残る?民法940条改正を弁護士解説

「相続放棄をしても、亡くなった人の財産を管理し続けなければならない」と聞き、不安になる方は少なくありません。特に、長年疎遠だった親が亡くなった場合、見たことも管理したこともない家や荷物についてまで責任を負うのかは気になるところです。

この記事では、YouTube動画「法改正で相続放棄後の管理義務はどう変わったか」の内容をもとに、民法940条の改正点と、相続放棄を検討するときの注意点を整理します。

この記事の結論

  • 2023年4月1日施行の改正民法では、相続放棄後に保存義務を負うのは、放棄時に相続財産を「現に占有」している人に限られます。
  • 長年疎遠で、亡くなった親の財産を使ったことも管理したこともない場合、民法940条の保存義務が生じる可能性は一般的には低いと考えられます。
  • ただし、相続財産を使ったり処分したりすると、相続を承認したと扱われ、相続放棄ができなくなる可能性があります。
弁護士 荒井達也

この記事の解説者:弁護士 荒井達也

荒井法律事務所代表、合同会社負動産の窓口代表社員。相続土地国庫帰属制度の制定に関わり、負動産・所有者不明土地・空き家問題に取り組んでいます。

荒井達也の詳しいプロフィール・実績

目次

相談事例:30年以上疎遠だった父の相続を放棄したい

幼い頃に両親が離婚し、母親のもとで育ちました。父とは30年以上連絡を取っていませんでしたが、先日、父が亡くなったと知らされました。父は賃貸住宅に住み、めぼしい財産もないようです。相続放棄を考えていますが、インターネットで「相続放棄をしても管理責任が残る」と読みました。私は父の財産を管理しなければならないのでしょうか。

この相談では、相談者が父親の財産を実際に使ったり管理したりしていたのかが重要です。動画の事例では、父親とは30年以上疎遠で、財産も一切管理していませんでした。

このような事情であれば、改正後の民法940条が定める「現に占有している」場合には通常当たりにくく、相続放棄後の保存義務が生じる可能性は低いと考えられます。

なぜ「相続放棄後の管理義務」が問題になったのか

相続放棄は、預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めて相続しないための制度です。そのため、相続放棄をすれば、原則として被相続人の権利や義務を引き継ぎません。

ところが旧民法940条には、相続放棄をした人にも一定の管理義務が残ることが定められていました。条文だけでは、誰が、誰に対して、どこまでの義務を負うのかが分かりにくく、空き家問題が深刻化するにつれて注目されるようになりました。

背景にあった空き家問題

典型的なのは、親が亡くなり、子ども全員が老朽化した実家を相続放棄するケースです。相続人がいなくなっても、近隣に迷惑をかける空き家はその場に残ります。

動画では、対応に困った自治体が旧民法940条を根拠に、相続放棄をした人へ管理を求めるケースがあったことを紹介しています。一方、法律家の間では、次に相続する人へ財産を引き渡すまでの最低限の義務であり、近隣住民や自治体に対する広い責任まで当然に負わせるものではないと考えられていました。

こうした条文の分かりにくさを解消するため、2021年に民法が改正され、2023年4月1日から新しいルールが施行されました。

民法940条の改正で明確になった3つのポイント

確認点 改正後のルール
誰が義務を負うか 相続放棄の時点で、相続財産を「現に占有」している人
何をする義務か 現に占有している相続財産を、自己の財産と同じ注意をもって保存すること
いつまで続くか その財産を相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで

「現に占有」とは、実際に使ったり管理したりしている状態

「現に占有」は法律用語ですが、動画では、相続財産を実際に使っていた、または実際に管理していた状態と説明しています。単に相続が始まったため法律上の地位を引き継いだ、というだけでは足りません。一方、本人が住んでいる場合だけに限られるわけでもなく、使用・保管・管理の状況から個別に判断されます。

相続が始まったというだけで、会ったことも管理したこともない遠方の財産について、当然に保存義務を負うわけではありません。反対に、放棄時に相続財産を現実に使い、または管理していた場合は、次の相続人などへ引き渡すまで、勝手に壊したり状態を悪化させたりしないよう保存する必要があります。

「管理」ではなく「保存」に範囲が限定された

改正後の義務は、相続財産を積極的に運用したり、価値を高めたりすることまで求めるものではありません。対象となる財産を次の相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで、現状を損なわないよう保存する義務です。

法務省の改正資料でも、義務の対象が「現に占有」している財産に限られること、義務の内容は保存にとどまり、それを超える管理義務ではないことが説明されています。

今回の相談者に保存義務が生じにくい理由

今回の相談事例には、次の事情があります。

  • 父親とは30年以上連絡を取っていなかった
  • 父親は賃貸住宅で生活していた
  • 相談者は父親の財産を使っていなかった
  • 相談者は父親の財産を管理していなかった

これらの事情から、相談者が相続放棄の時点で父親の財産を「現に占有」していたとは通常考えにくく、民法940条の保存義務が生じる可能性は低い、というのが動画での結論です。

ただし、保存義務の有無は個別の事実関係で変わります。実際に財産を使っていたか、管理していたかなど判断に迷う事情がある場合は、相続放棄の手続きを進める前に専門家へ確認してください。

相続放棄を考えているなら、財産を勝手に処分しない

今回の動画で、保存義務以上に注意を促しているのが、相続財産を使ったり処分したりしないことです。

例えば、亡くなった人の自宅にあった現金を使い、その後で借金だけを理由に相続放棄することは認められません。処分行為の内容によっては法定単純承認とみなされ、相続放棄の効果を主張できなくなる可能性があります。

「最低限片付けてあげたい」と考えて、家財道具や荷物の処分を始める場合も注意が必要です。どこまでの行為なら問題ないかは、処分する物の性質・目的・規模などによって評価が変わります。自分だけで決めず、先に相続に詳しい弁護士などの専門家へ相談する方が安全です。

相続放棄を検討している段階では、相続財産に不用意に手を付けないことが重要です。

まとめ:疎遠だっただけで管理責任を負うわけではない

  • 改正民法940条の保存義務は、相続放棄時に相続財産を「現に占有」している人に限られる
  • 義務の内容は、次の相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで財産を保存すること
  • 長年疎遠で、財産を使ったことも管理したこともない場合は、保存義務が生じる可能性は一般的には低い
  • 相続財産を使ったり処分したりすると、相続放棄ができなくなる可能性がある

相続放棄は、財産の状況や相続人同士の関係によって注意点が変わります。「管理していたことになるのか」「片付けてもよいのか」と迷う場合は、財産に手を付ける前に相続に詳しい弁護士などの専門家へ相談してください。

参考資料

※本記事は動画の内容と法務省の公表資料をもとに、一般的な情報として整理したものです。個別の事案については、弁護士・司法書士などの専門家へご相談ください。

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