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負動産を相続放棄する前に知るべき6つの注意点|3か月期限・管理義務を弁護士解説

「親が住んでいる実家や畑が、将来売れそうにない。相続が始まったら放棄すれば、それですべて終わるのではないか」と考える方は少なくありません。

しかし、負動産を理由とする相続放棄には、3か月の期限や遺産の取扱いだけでなく、次順位の親族への影響、放棄後の保存義務、何十年もたってから放棄を証明できるかという問題があります。

この記事では、YouTube動画「負動産の相続放棄にご注意ください」の内容をもとに、負動産を相続放棄するときに見落としやすい注意点と、生前に検討したい対策を順番に整理します。

この記事の結論

  • 法的な相続放棄は、原則として「自己のために相続が始まったことを知った時から3か月以内」に、家庭裁判所へ申述して行います。
  • 遺産を受け取らないことや、名義変更をしないことだけでは、相続放棄にはなりません。
  • 相続放棄を考えている間は、故人の預貯金・家財・不動産などに不用意に手を付けないことが重要です。
  • 自分が放棄すると次順位の親族へ相続権が移ることがあり、負動産の問題が親族間で先送りされる可能性があります。
  • 将来の負動産がすでに分かっているなら、相続後の放棄だけを前提にせず、生前処分も含めて早めに検討することが大切です。
弁護士 荒井達也

この記事の解説者:弁護士 荒井達也

荒井法律事務所代表、合同会社負動産の窓口代表社員。相続土地国庫帰属制度の制定に関わり、負動産・所有者不明土地・空き家問題に取り組んでいます。

荒井達也の詳しいプロフィール・実績

目次

相談事例:売れそうにない実家と畑は相続放棄すればよい?

将来、親が住んでいる実家と畑を2つほど相続しそうです。過疎地域にあり、処分できる見込みがないため、相続放棄をしようと思っています。問題ないでしょうか。

相続放棄は、借金だけでなく、空き家や使わない土地などの負動産を引き継がないためにも利用されます。家庭裁判所への申述自体は一般に複雑すぎる手続きではありませんが、途中で判断を誤ると、放棄できなくなったり、別の親族へ問題が移ったりするおそれがあります。

そのため、「自分が相続放棄をすれば解決する」と決める前に、まず次の注意点を確認する必要があります。

最初の注意点は「3か月」の熟慮期間

相続放棄は、原則として、自己のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に行う必要があります。この期間は、相続を承認するか放棄するかを考えるための「熟慮期間」と呼ばれます。

戸籍などの添付書類を集め、管轄の家庭裁判所を確認して申述するには時間がかかります。3か月では判断や調査が間に合わない事情がある場合、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる方法もありますが、その申立ても期間内に検討しなければなりません。

相続が発生してから準備を始めると、3か月は想像以上に短い期間です。放棄の可能性があると分かった段階で、早めに必要書類と財産状況を確認してください。

「遺産をもらわない」だけでは相続放棄にならない

相続放棄は、家庭裁判所に申述して行う法的な手続きです。例えば、「長男がすべての遺産を取得し、自分は何も受け取らなかった」というだけでは、法的な意味で相続放棄をしたことにはなりません。

また、「不動産の名義変更をしていないから、まだ相続していない」という理解も正確ではありません。相続は、被相続人が亡くなった時点で始まります。相続人が名義変更などの行為をして初めて相続が発生するわけではありません。

よくある認識 注意点
遺産を受け取らなければ放棄したことになる 遺産分割で取得しないことと、家庭裁判所で行う相続放棄は別です。
名義変更をしなければ相続していない 相続は死亡時に始まるため、名義変更の有無だけでは決まりません。
受理されたら、その後は絶対に争われない 受理後でも、遺産の処分などを理由に放棄の効力が争われる可能性があります。

相続放棄を考えているなら、相続財産に触らない

相続放棄をするつもりなら、故人の財産を不用意に使ったり、処分したりしないことが重要です。相続財産を処分した行為が法定単純承認に当たると判断されれば、相続放棄が認められない、または後から効力を争われる可能性があります。

特に注意したいのは、預貯金を引き出すような分かりやすい行為だけではありません。善意で行った家財の片付けや処分、故人の財産からの支払いも、内容や規模によって評価が問題になることがあります。

葬儀費用の支払いも自己判断を避ける

故人の財産から葬儀費用を支払ってよいかは、よくある質問です。動画では、金額が不相当に高くなければ問題ないとする見解がある一方、何が相当かは一律に判断できず、過去の裁判例を前提とした議論でもあるため、安易に「大丈夫」とは考えない方がよいと説明しています。

相続放棄を検討している場合は、必要に迫られた支払いであっても、誰の財産から、何のために、いくら支払うのかを専門家へ確認してから動く方が安全です。

「きれいにしておこう」「代わりに払っておこう」という善意の行為でも、相続放棄に影響する可能性があります。迷ったら、先に財産へ手を付けないことが基本です。

家庭裁判所の「受理」は有効性の最終保証ではない

家庭裁判所に相続放棄の申述が受理されても、それだけで、どのような事情があっても放棄が有効だという最終判断が示されたわけではありません。

例えば、相続財産を処分していたなどの事情が後から判明し、関係者が相続放棄の効力を争うことはあり得ます。放棄が受理された後も、それ以前の行為が問題になり得るため、「受理通知が届けばすべて終わり」とは考えないようにしてください。

負動産では、放棄後の保存義務も問題になる

空き家や土地のように、その場に残り続ける財産では、相続放棄後の保存義務が問題になることがあります。

動画で「管理継続義務」と説明しているのは、相続放棄の時点で亡くなった人の財産を実際に占有・管理していた場合、放棄後も、次の相続人や相続財産清算人へ引き渡すまで最低限の保存が必要になるという問題です。例えば、空き家の鍵を持って管理していたなどの事情が判断材料になります。

どのような状態なら義務を負うのかは、鍵の所持だけで機械的に決まるものではなく、実際の使用・管理状況によります。また、次の相続人や相続財産清算人だけでなく、事故などが起きた場合に行政や近隣住民との関係で責任が問題になる可能性もあり、個別事情に応じた検討が必要です。

自分が放棄すると、相続権は次順位の親族へ移る

相続放棄は、負動産そのものを消滅させる手続きではありません。亡くなった人の配偶者は常に相続人となり、配偶者とともに相続人になる親族には次の順位があります。先順位の相続人が全員放棄すると、相続権が次順位の親族へ移ることがあります。

  1. 亡くなった人の子
  2. 子が相続人とならない場合は、父母などの直系尊属
  3. 直系尊属も相続人とならない場合は、兄弟姉妹
  4. 兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は、その子(亡くなった人のおい・めい)

例えば、亡くなった人の子が「両親も兄弟もすでに亡くなっているから、自分が放棄すれば相続人はいなくなる」と考えていても、先に亡くなった兄弟姉妹の子へ相続権が移る可能性があります。放棄した本人から見ると、いとこなどの親族に負動産の問題が及ぶケースです。

家庭裁判所から次順位の相続人へ自動連絡されるわけではない

誰かが相続放棄をしても、「次はあなたが相続人です」と家庭裁判所などから次順位の人へ必ず連絡が届くわけではありません。そのため、親族が自分の立場を知らないまま時間が経つことがあります。

固定資産税に関する通知や、空き家の倒壊など実際の問題が起きて相続人調査が行われた時に、初めて相続との関係を知るケースもあります。通知の意味が分からないまま放置し、熟慮期間をめぐる問題へ発展することも考えられます。

法的な責任の問題とは別に、事前の説明がなければ親族間の感情的な対立も生じかねません。負動産を理由に相続放棄する場合は、自分だけの手続きで完結するかではなく、次順位の相続人まで確認することが大切です。

負動産と相続放棄の相性がよくない理由

動画で負動産特有の大きなリスクとして挙げているのが、何十年も後に相続放棄を証明する必要が生じる可能性です。

動画では、家庭裁判所における相続放棄関係記録の保存期間が30年であることを前提に説明しています。現在の裁判所の公式案内でも、被相続人の死亡から30年を経過した相続放棄・限定承認の有無については、原則として回答できないとされています。例えば、祖父の死亡時に相続放棄をしても、その後の世代で空き家の倒壊などが起きた時、裁判所から回答を得られず、当時の放棄を証明することが難しくなるおそれがあります。

記録がなくなったからといって、過去の相続放棄が当然に無効になるわけではありません。しかし、証明資料を用意できなければ、相続人として扱われることをめぐって争いになるリスクがあります。

借金などの債務では年月の経過により消滅時効が問題になりますが、不動産は30年後、50年後にも現地に残り続けます。だからこそ、長期間経過後の立証問題が生じやすく、動画では負動産の処分と相続放棄は相性がよくないと指摘しています。

相続放棄後のリスクに備える2つの方法

1.受理証明書などを保管し、次の世代へ引き継ぐ

1つ目は、相続放棄申述受理証明書や手続きの受付書類などを取得し、長期にわたって保管する方法です。家庭裁判所側の記録から証明できなくなった時でも、手元の資料が残っていれば放棄を示す手がかりになります。

ただし、紙の書類を何世代にもわたって確実に引き継ぐのは簡単ではありません。本人の認知症や病気、死亡などにより一度でも引継ぎが途切れれば、必要な時に資料を見つけられない可能性があります。動画でも、対策にはなるものの、現実には確実性の高い方法とは言いにくいと説明しています。

2.相続財産清算人の選任を申し立てる

2つ目は、相続人がいない状態になった場合に、家庭裁判所へ相続財産清算人の選任を申し立てる方法です。

相続財産清算人が選任されると、弁護士などが相続財産の調査・管理・清算を進めます。不動産の登記にも相続財産法人に関する表示が入るため、後年、当時の相続放棄資料を個人が提示できなくても、相続人不在を前提とした清算手続きが進められたことをたどりやすくなります。

一方で、申立てには専門的な対応が必要で、裁判所から清算人の報酬などに充てる予納金を求められることがあります。動画では50万~100万円程度を見込む場合があると説明していますが、被相続人に十分な預貯金があるなど、財産状況によって取扱いは異なります。

相続人が残っていると、すぐ清算手続きへ進めない

相続財産清算人は、どのケースでも直ちに利用できるわけではありません。放棄していない相続人がいるなど、相続人がいない状態になっていなければ、前提を欠くためです。

例えば、相続人の中に認知症などで本人だけでは相続放棄を判断・申述することが難しい人がいる場合、後見制度を含めた別の対応が必要になり、全員の関係をすぐに整理できないことがあります。親族が多いケースでは、叔父・叔母やその子まで確認が必要になることもあり、清算手続きへ進むまでに時間を要する可能性があります。

方法 利点 注意点
受理証明書などの保管 将来、放棄を示す資料として使える 何世代にもわたる確実な保管・引継ぎが必要
相続財産清算人の選任 管理者不在の財産を法的手続きで清算できる 費用と手間がかかり、相続人が残る場合はすぐ利用できない

相談事例への当てはめ:相続後の放棄だけに頼らない

相談者が予定しているのは、親が住む実家と2つの畑について、将来の相続開始後に放棄する方法です。しかし、この方法には次の課題があります。

  • 相続開始を知ってから原則3か月以内に判断・申述する必要がある
  • 申述前後に財産へ触れると、放棄の効力が問題になる可能性がある
  • 自分が放棄すれば、次順位の親族へ相続権が移る可能性がある
  • 実家や畑を管理していれば、放棄後も引渡しまで保存が必要になる可能性がある
  • 清算人まで選任して整理するには、費用と手続き上の負担が生じる
  • 清算せずに残せば、何十年も後に放棄の証明が問題になる可能性がある

したがって、相続放棄が利用できないという結論ではありませんが、「負動産だから、将来放棄すれば問題ない」と今の段階で決めてしまうのは危険です。家族関係、財産の管理状況、次順位の相続人、清算手続きまで含めて検討する必要があります。

相続が発生したら、まず専門家へ相談する

相続放棄には、期限、遺産の処分、次順位の相続人、保存義務など、個別事情によって判断が変わる論点があります。動画で最も強く伝えているのは、細かなルールをすべて覚えることより、相続が発生して放棄を考えたら、すぐに専門家へ相談することです。

相続放棄については、身近な弁護士や司法書士へ相談できます。財産へ手を付けた後や3か月が経過した後では選択肢が狭まる可能性があるため、「もう少し整理してから」ではなく、判断に迷っている段階で相談してください。

相続前なら、生前処分も含めて今できる対策を考える

今回のように、将来引き継ぐ可能性のある実家や畑がすでに分かっているなら、相続が始まるまで待つ必要はありません。

相続放棄後に相続財産清算人まで選任して整理しようとすれば、まとまった費用と手間が必要になる場合があります。動画では、その費用をかけるのであれば、生前に土地を処分できるケースも多いと説明しています。

制度や実務上の取扱いが将来も同じとは限りません。また、相続放棄をしても、「あの土地は今どうなっているのか」「災害で問題が起きていないか」という心理的な心残りが続くこともあります。問題を先送りせず、所有者である親が元気なうちに、売却・引取り・その他の処分方法を調べ、少しでも前に進めておくことが現実的な対策です。

まとめ:負動産の相続放棄は、その後まで見通して判断する

  • 相続放棄は、原則として自己のために相続が始まったことを知ってから3か月以内に、家庭裁判所へ申述する
  • 遺産を受け取らないことや名義変更をしないことだけでは、法的な相続放棄にならない
  • 放棄を考えている間は、預貯金・家財・不動産など相続財産へ不用意に手を付けない
  • 家庭裁判所に受理された後でも、遺産の処分などを理由に効力が争われる可能性がある
  • 放棄後の保存義務や、次順位の親族へ相続権が移る可能性も確認する
  • 長期間残る負動産では、将来、相続放棄を証明できる資料の保管や清算手続きも検討する
  • 相続が発生したら早めに専門家へ相談し、相続前なら生前処分も含めて検討する

相続放棄は、負動産を引き継がないための選択肢の1つですが、負動産そのものを消す制度ではありません。自分の放棄だけで問題が終わるのか、親族や次世代へ先送りされないかまで確認したうえで判断してください。

参考資料

※本記事は動画の内容をもとに、一般的な情報として整理したものです。相続放棄の可否や保存義務、相続財産清算人の選任などは個別の事情によって異なります。具体的な事案については、弁護士・司法書士などの専門家へご相談ください。

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