相続土地国庫帰属の条件!どんな土地が対象?

制度の解説

引取不可のブラックリストがある!

 2021年4月、相続土地国庫帰属法が成立し、不要な土地を手放して国に引き取ってもらえる制度が創設されました。この制度は、2023年4月頃から利用できるようになる予定です。

 しかし、法律で定められたブラックリストにあてはまると引き取ってもらえません。

 このブラックリストには、①申請すらできない土地のリスト(門前払いとなるもの)②申請はできるけど、状況によって手放すことができない土地のリストの2つがあります。

 具体的には次のとおりです。

 <①申請すらできない土地(門前払いとなるもの)>
 A 建物がある土地
 B 担保権や使用収益権が設定されている土地
 C 他人の利用が予定されている土地
 D 土壌汚染されている土地
 E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

 <②申請はできるけど、状況によって手放すことができない土地>
 A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に多大な費用・労力がかかる土地
 B 土地の管理・処分を阻害する有体物(例:放置自動車、樹木等)が地上にある土地
 C 土地の管理・処分のために除去しなければいけない地下埋設物(例:埋蔵文化財)がある土地
 D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
 E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

 今回はこのブラックリストの詳細について解説したいと思います。

 New!! 2022年8月4日にさらなる詳細が公表されました。関心がある方はこちらもご覧ください!

 >【速報】原則20万で土地を国に?相続土地国庫帰属法政令案公表!【弁護士が徹底解説】

動画で学びたい方向けに

 今回の記事に関しては、動画でも解説したことがありますので、ご興味がある方はこちらをご覧ください。

申請すらできない土地(門前払いとなるもの)

建物がある土地

建物があるとダメな理由

まず、建物がある土地は申請ができないとされています。

建物は、一般に管理コストが土地以上に高額です。

老朽化すると、管理に要する費用や労力が更に増加するだけでなく、最終的には建替えや取壊しが必要になります。

このように建物は通常の管理・処分に多大な費用・労力を要することが明らかであるため、建物が存在する土地については、承認申請をすることができないこととされています。

どこからが「建物」?

なお、ここでいう「建物」については、具体的な定義は定められていません。

ただ、一般的に法律的な意味での「建物」とは、土地にしっかり定着している物であって、かつ、目的からみて使用のための構造部分が出来上がったものをいいます(舟橋諄一他編『新版注釈民法(6) 補訂版』(有斐閣、2009年)279頁)。

もう少し具体的に言うと、住宅用の建物については、床や天井ができていなくても、住宅用建物の完成に役立つといえる屋根があり、荒壁を塗り終えた段階の工事中の物であれば、建物といえます(大審院昭和10年10月1日判決民集14巻1671号)。

他方で、住宅用の建物の場合でも、単に材木の組み立てが済んで、雨がしのぎる程度に屋根葺きを終えた程度で、荒壁の仕事に着手したかどうかも的確でない状態では、建物とはいえないとされることもあります(大判昭8・3・24民集12・490)。

また,工場については、床がなくとも建物となる場合があります(前掲大審院昭和10年10月1日)。

このように、建物になるかどうかは、建物の主たる用途も判定基準となります。

相続土地国庫帰属制度における「建物」についても、同様の基準で判断される可能性がありますし、建物は管理が大変という趣旨から考えると、より厳しい基準で建物かどうかが判断される可能性があります。

なお、建物ではなく、単なる工作物だと判断された場合でも、その工作物が土地の通常の管理又は処分を阻害している場合は、別のブラックリストに該当し、制度が利用でない点は要注意です。

ケーススタディ:山小屋や廃屋がある場合

 では、山小屋や廃屋がある山林については、どうでしょうか?

 また、その山小屋や廃屋が老朽化し、建物とはいえない状態になっている場合はどうでしょうか?

 結論としては、山小屋や廃屋は、基本的に建物といえるため、この制度の利用はできません。

 他方で、山小屋や廃屋の屋根が崩れたりするなどして、もはや「建物」とはいえない状態になっている場合、上記の「建物の存する土地」には該当しません。

 もっとも、建物でなくなったとしても、土地の「工作物」に該当する可能性が高いといえます。

 この点について、土地上に工作物があったとしても、直ちに相続土地国庫帰属制度が利用できなくなるわけではありませんが、その工作物が土地の通常の管理又は処分を阻害している場合は、制度が利用できません(法5条1項2号参照)。

 なお、この点については、国会審議において次のようなやりとりなされています。

○川合孝典議員
 土地所有権の国庫への帰属に関する法律のこの二条三項に定める国庫帰属の要件、幾つかある要件の中で、建物の存在する土地というものが帰属させられない土地の要件に一つ掲げられていますが、これは廃屋なんかも含まれるわけでしょうか。
○小出政府参考人(法務省民事局長(当時))
 委員御指摘のいわゆる廃屋につきましては、それがいまだ建物としての状態を保っている場合には二条三項一号の建物の存ずる土地に該当することになり、屋根が崩落するなどしてもはや建物とは言えなくなっている場合には、通常は第五条第一項第二号の土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物が地上に存する土地に該当することになるものと考えられまして、いずれにしても、国庫帰属の要件を満たさないことになるものと考えられるところでございます。


第204回国会 参議院 法務委員会 第7号 令和3年4月13日
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000420420210324007.htm

 以上を踏まえると、山小屋や廃屋がある山林を手放したい場合は、その山小屋や廃屋が建物といえるかを検討した上で、建物である場合は解体し、建物ではない工作物に該当する場合は土地の管理を阻害するものになっていないかを検討する必要があります。そのうえで、もし管理を阻害する工作物であれば、取り壊す必要があります。

 なお、山小屋等を近隣の土地所有者の方に引き取ってもらうことができるのであれば、山小屋等がある部分を分筆し、切り離したうえで山小屋等がない部分だけ国庫帰属の申請を行うことも選択肢になるでしょう。

担保権や使用収益権が設定されている土地

次に、担保権や使用収益権が設定されている土地も引き取りの対象外です。

担保権というと、抵当権、質権、先取特権等があります。

また、いわゆる譲渡担保権(所有権を担保目的で移すもの)についても、担保権に該当します。

使用収益権というと、賃借権、地上権等があります。農地を貸している場合等は賃借権が設定されているということになります。

なお、登記がされているか否かにかかわらず、これらの権利が設定されていることが発覚した場合は引き取りの対象外になります。

他人の利用が予定されている土地

次に、通路(私道など)のように現に土地所有者以外の者により使用されており、今後もその使用が予定されている土地や、現に使用されてはいなくても、将来的に他人の使用が予定されている土地についても引き取りの対象外です。

このような土地を国が引き取ると、その管理に当たって使用者等との調整が必要であるなど、通常の管理・処分に多大な費用・労力を要するが明らかだからです。

なお、「他人による使用が予定される土地」の具体例としては、道路法上の道路など法令により他人による使用が予定される土地、現に通路の用に供されている土地、墓地内の土地、境内地(けいだいち。※ざっくりいうとお寺の土地等)、現に水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地等があります。

なお、こちらについては、次の記事でも詳細を解説しています。

 >【速報】原則20万で土地を国に?相続土地国庫帰属法政令案公表!【弁護士が徹底解説】

土壌汚染されている土地

次に土壌汚染されている土地についても引き取りが認められません。

具体的な基準は、土壌汚染対策法における環境省令で定める基準(特定有害物質に係る土壌溶出量基準及び上壌含有量基準)と同様のものにすることが想定されています。

土壌汚染対策法では、都道府県知事が健康被害が予想される土地を要措置区域として指定することになっているのですが、土壌汚染がある土地は、管理・処分に制約があり、汚染の除去のために多大な費用がかかる上に、場合によっては周囲に害悪を発生させるおそれがあるため、引き取りの対象外とされました。

なお、土壌汚染の判断方法ですが、申請地の過去の用途の履歴について、申請者の認識や地方公共団体が保有している情報等を調査することにより、判断することが想定されています。そのうえで、土壌汚染の可能性がある場合は、申請の際に土壌汚染調査が求められることになります。

境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

「境界が明らかでない土地」についても引取の対象外です。

典型的には隣地所有者との間で境界の認識が一致しない場合が挙げられます。

また、申請者以外にその土地の所有権を主張する者がいる土地についても引取の対象外です。

例えば、相続登記がなされていない土地も所有権について争いがある土地とされます。

こういった土地は、国が管理するうえで支障が生じることが明らかですので、引き取りの対象外とされました。

申請はできるけど、状況によって手放すことができない土地

一定の勾配・高さの崖があって、管理に多大な費用・労力がかかる土地

次に、崖地がある場合、状況によって引き取りが認められないことになっています。

崖がある土地は、安全対策等の管理コストがかさむおそれが類型的に高く、これを国庫に帰属させることは財政負担の観点から相当でないからです。

他方で、例えば、周囲に人家が存在せず、天災等により崖崩れが発生したとしても周囲の土地の損害発生の可能性が低いような土地については、引取の対象になりえます。

なお、崖地の基準は政令で定められることになっているのですが、こちらについては次の記事をご覧ください。

 >【速報】原則20万で土地を国に?相続土地国庫帰属法政令案公表!【弁護士が徹底解説】

ちなみに、もし国が引き取りを拒否した場合でも、危険な崖については、急傾斜地法等で行政が対応することがありますので、必要に応じて行政にも相談してみてください。

土地の管理・処分を阻害する有体物(例:放置自動車、樹木等)が地上にある土地

工作物、車両、樹木等が地上に存在している土地はについても、状況によって引き取りの対象外です。

例えば、果樹園の樹木については、一般的に、放置しておくと鳥や獣や病害虫の被害の要因となる関係で、定期的に枝の剪定や農薬の散布などの作業が必要になるため、こういった土地は引取の対象外になる可能性が高いといえます。国庫帰属の対象外になることが想定されます。

他方で、森林において樹木があるのはむしろ通常ですので、安全性に問題のない土留めや柵がある場合などには、引取が認められることがあります。

土地の管理・処分のために除去しなければいけない地下埋設物(例:埋蔵文化財)がある土地

 地下にいわゆる埋設物等の有体物がある土地についても、状況次第で引取不可になります。

 こういった土地は、その管理・処分に制約が生じ、その撤去のために多大な費用がかかる上に、場合によっては周囲に害悪を発生させるおそれがあるためです。

 他方で、例えば広大な土地の片隅に存する配管のように、土地の管理・処分に支障がない物であれば、除去しなくても特に問題はないため、こういった場合は引き取りが認められる場合があります。

 なお、埋設物の有無の判断方法ですが、申請地の過去の用途の履歴について、申請者の認識や地方公共団体が保有している情報等を調査することにより、判断することが想定されています。そのうえで、埋設物の可能性がある場合は、申請の際にボーリング調査が求められることになります。

隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地

 不法占拠者がいる土地のように、隣地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分を行うことができない土地も、状況によっては引取の対象外です。

 こういった土地は、管理を行う上で障害が生ずるおそれが高いからです。

 こちらの具体的な内容については、別途、政令で定めることとされているのですが、詳細は次の記事をご覧ください。

 >【速報】原則20万で土地を国に?相続土地国庫帰属法政令案公表!【弁護士が徹底解説】

その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

 最後に、共益費等の支払を要する土地や森林の伐採後に植栽等の造林が行われていない土地についても引取の対象外です。

 こちらの具体的な内容については、別途、政令で定めることとされているのですが、詳細は次の記事をご覧ください。

 >【速報】原則20万で土地を国に?相続土地国庫帰属法政令案公表!【弁護士が徹底解説】

ブラックリスト、厳しくない?

 ここまでのご説明で次のように思う方がいらっしゃると思います。

 「要らない土地を手放せる制度なのに、 管理・処分が大変ではない土地って、なんか矛盾していない?」

 確かにそのとおりになのですが、逆の立場(国の立場)から考えると、 管理・処分が大変な土地を引き受けてしまうと国の財政負担(我々の税金)が増加することに繋がります。

 また、要件が緩やかになってしまうと、将来、国に引き取ってもらうことを前提に土地の管理を放棄するというモラルハザードを誘発するおそれが出てきます。

 今回の制度は、前例のない制度ということもあり、制度創設の初期段階ではある程度厳格な要件もやむを得ないと感じるところです。

 なお、この制度は施行から5年経過したところで改めて内容を見直すことが予定されています。

最後に

 いかがでしたか?今回は、 相続土地国庫帰属制度と隣接制度の違いについて解説しました。 

 もし、この記事が「わかりやすい」「勉強になった」と思った方はSNS等で共有していただけると、とてもうれしいです。

 なお、この制度の全体像については、次の記事で解説していますので興味がある方はぜひご覧ください。

 【いつから?】令和5年4月開始!相続土地国庫帰属制度とは何か?【いらない土地を国に返す制度!?】

 

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この記事を書いた弁護士

弁護士 荒井達也

太陽光発電等の法律業務に携わる中で所有者不明土地や空き家の問題に直面し、法の不備を痛感。日弁連を通じ法改正に携わった後、現場に戻り問題解決に尽力しております。無料相談は私が対応します。

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