弁護士 荒井達也
弁護士として国庫帰属制度の制定に関与。相談も100件以上対応。申請済みの案件・申請準備中の案件に多数関与。他にもTV・新聞等、専門書出版などを通じて国庫帰属制度や負動産の処分方法を発信している。
成功率93.4%!いらない土地を国に返す『国庫帰属制度』の条件は本当に厳しいか?
こんにちは!弁護士の荒井達也です。
今回は、相続土地国庫帰属制度の完全攻略というテーマで解説します。
みなさん、「相続土地国庫帰属制度」と聞いて、どのようなイメージを持っていますか?
「いらない土地だけ国に返せる制度って聞いたけど」
「でも条件が多くて、厳しいんでしょ?」
「ネットで調べていたら、『この制度が使えるのは売れる土地』だと聞いて落胆しました」
「申請前に50万以上掛かて測量をしないといけないんでしょ?」
こういった感想お持ちではありませんか?
しかし、これらは、すべて誤解です!
確かに、私も制度開始前はこの制度の要件が厳しいと感じていました。
引き取った土地は国の税金で管理するから、ある程度厳しいのはしょうがないとも思っていました。
しかし、2023年末、国の引取りが認められた割合を示す承認率(成功確率)が93.4%であったことがわかりました!
93.4%の確率で国に引き取ってもらえる制度は、果たして条件が厳しいと思いますか?
実は、ここだけの話、「条件が厳しい」と言っている人は、国庫帰属制度のことを知らない人です。
さらに酷い場合だと、自分のサービスや商売に繋げるために、意図的に国庫帰属制度は使えないと言っていることもあります。
私は、これまで100件以上の相談を受けてきましたが、条件が厳しいとは思いません。
実際、私のご相談者様の中でも実際に国庫帰属制度で土地を手放した方やこの制度を申請して国の審査を受けている方がたくさんいます。
むしろ、条件が緩く、将来、法改正で条件が厳しくなったり、利用料金が上がらないか?という心配すらしています。
もちろん、どんな土地でも国が引き取るわけではありません。
申請する際はそれなりの準備も必要です。
ただ、国庫帰属制度の制定に携わった者として、国庫帰属制度のことをよく知らない方々が条件が厳しいというのはすごく歯がゆい思いです。
負動産で困っている方が多いのに、条件が厳しいの一言で、手放す可能性を切り捨てるのはいかがなものかと思います。
私は、現状の承認率の高さも踏まて、もっと、みなさんに国庫帰属制度を正しく理解してほしいと感じています。
そこで、今回は、誤解が多い相続土地国庫帰属制度について、制度の制定にも関与した弁護士の私が、①制度のメリット・デメリット、②利用条件、③利用手続まで、徹底的に解説したいと思います。
この記事を読み終わった後には、専門家顔負けのレベルで国庫帰属制度が理解できます。
さらには、自分が国庫帰属制度を利用すべきか、利用しない場合はどういった処分方法が自分に合っているかも理解できます。
「負動産で子どもたちに迷惑を掛けたくない」
「自分の代で負動産を整理しておきたい」
このように考えている方は是非最後までご覧ください。
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相続土地国庫帰属制度のメリットとデメリットは?
相続土地国庫帰属制度のメリット
制度の細かい内容に入る前に、まず、国庫帰属制度のメリットとデメリットを理解しておきましょう。
あなたは、国庫帰属制度のメリットは何だと思いますか?
少しお調べになったことがある方であれば、
「相続放棄と違って、プラスの財産は引継ぎ、いらない土地だけ手放せるところ?」
とお答えになるかもしれません。
実は本当のメリットは、この点ではありません。
正解は、引き取り手が国だから安心できる!という点が国庫帰属制度の最大のメリットです。
実は、近年、負動産の処分方法が充実してきたこともあり、負動産を手放せている方はたくさんいます。
ただ、国庫帰属制度以外の方法で手放す場合、「信頼できる引き取り手を探すこと」が非常に難しいです。
そもそも、負動産は、不動産会社に相談しても門前払いされます。
そのため、自力で信頼できる引き取り手を見つける必要があります。
これに対して、相続土地国庫帰属制度では、国が引取ります。
国が引き取るということは、引き取り後は国有地として適切に管理されるという安心感があります。
そのため、引取後のトラブルや管理で問題が起きる可能性が小さいのです。
実際に、私への相談者の中にも、安心感を重視して国庫帰属制度を選ぶ方が多いです。
ちなみに、引き取り手の信頼性はなぜ大事なのでしょうか?
実は、最近、負動産を手放したい方を狙った詐欺が増えています。
国民生活センターなどが注意喚起を行うくらいです。
(出典:国民生活センター「より深刻に!「原野商法の二次被害」トラブル-原野や山林などの買い取り話には耳を貸さない!契約しない!-」より)
私のところにも、「先日、聞いたこともない不動産屋から趣旨不明の広告費を請求された。信用していいか?詐欺ではないか?」というご相談が寄せられており、こういった詐欺業者が増えていると感じます。
現状、国はこれらの詐欺業者を十分に取り締まれていないため、今後も益々こういった詐欺は増えるでしょう。
こういった詐欺被害が心配であれば、国庫帰属制度は是非検討していただきたいです。
また、仮に、詐欺でない場合でも、引取り手の信頼性は問題になります。
引き取り手の選択を誤って裁判沙汰になっている方もいます。
契約書をしっかり作っても文句を言ってくる人は文句を言ってきます。
災害が起きたあとに「私が思っていた土地と違ったから返す」と言われ、トラブルに発展したらどうでしょう?
しかも、それが相続後のお子さんの世代で起きたら、結果的にお子さんたちに迷惑を掛けることになります。
負動産の問題は、不動産屋も士業もあまり積極的に相談に乗ってくれません。
将来トラブルにならないように、自分の力で、きちんと進める力が必要です。
この辺に少しでも不安がある方は、ぜひ国庫帰属制度を検討してください。
もちろん、国庫帰属制度は万能ではありません。
検討の結果、最終的に国庫帰属制度を使わないという選択をすることもあるでしょう。
それでも全く問題ありません。
ただ、国庫帰属制度を勉強することで他の処分方法と比較ができるようになります。
比較する中で、国庫帰属制度は国が引き取るから安心できるということがよくわかると思います。
相続土地国庫帰属制度のデメリット
他方で、相続土地国庫帰属制度のデメリットはなんでしょうか?
よく言われるデメリットとして手間暇、時間、お金が掛かるという点が挙げられます。
例えば、国に返還する際に負担金(原則20万円)を納付する必要がある点もデメリットです。
また、国の手続には時間も掛かります。
現状、審査期間に半年から1年掛かると言われています(原則は8か月)。
ただ、これらのデメリットは本当に問題にするべきデメリットでしょうか?
例えば、「負動産を1年以内に絶対手放す必要がある!」という方は多くないと思います。
多くの方は、子どもたちに迷惑を掛けないために、元気なうちに処分しておきたいと考えています。
また、費用面でも、不要な土地を手放そうとすると、登記費用や諸費用等で数十万程度掛かることは珍しくありません。
さらに、負動産を放置すると、固定資産税や草刈りの費用などでお金が掛かります。
将来、相続が発生すれば、相続登記(不動産の名義変更)も必要になり、10万円以上のお金が掛かることもあります。
もっとマズいのは、詐欺業者や不誠実な方に捕まって、トラブルに巻き込まれることです。
こういった場合、想定される被害額は100万円以上になる可能性もあります(弁護士費用等)。
裁判になれば、お金以外にも時間や手間がかかります。
ストレスも相当なものです。
さらに、一番最悪なのは土地に問題があって他人に迷惑を掛けるケースです。
賠償金も高額になることもあります。
実際に、6000万円の損害賠償が認められたケースもあります(以下の動画で解説します。)。
相続後に問題が起きれば、お子さん達が巻き込まれます。
人身事故につながると刑事責任(業務上過失致死罪)が問題になることもあります。
(出典:時事ドットコム2021年10月28日21時12分付け記事 https://www.jiji.com/jc/article?k=2021102800604&g=soc)
そう考えると、期間や費用を多少かけてでも安心して土地を手放せる国庫帰属制度を利用することは十分合理的な選択肢です。
なお、国庫帰属制度のメリットやデメリットの詳細は、次の記事で解説しています。
いつから?相続土地国庫帰属制度開始は2023年4月から!
相続土地国庫帰属制度の施行日(制度開始日)は、2023年4月からスタートしました。
制度が開始する10年前、20年前、50年前に相続した土地も利用できます。
承認率93.4%!相続土地国庫帰属制度の実績は?
相続土地国庫帰属制度のメリット・デメリットが理解できたとしても、やっぱり実際のところ、申請したら引き取ってもらえるかは心配になりますよね。
ここで、国庫帰属制度の実績を見ておきましょう。
申請が殺到!制度開始直後の申請状況
なお、制度開始直後(令和5年4月)の申請件数は約130件でした。
制度開始数カ月後の申請状況
2023年8月24日付の大阪日日新聞の記事によると、この記事の取材時点で、審査中の案件が700件になるとのことです(相続した土地「手放したい人」の土地国庫帰属法)。
また、2023年9月16日付の読売新聞の記事によると、群馬県では、制度開始前の2月下旬から8月末までに延べ303件寄せられ、申請も39件(いずれも速報値)あったとのことです(土地処分に困る人多く…)。
さらに、2023年10月4日付け法務大臣閣議後記者会見によると、2023年8月末日時点で、全国の法務局に885件の承認申請がなされているとのことです。また、相談については、1万4000件を超えたとのことです。
初の承認案件!
ついに、2023年9月下旬には初の承認案件が現れました!
実際に承認されると通知書が届きます。
2023年11月30日時点での状況
申請 1,349件
承認 48件
却下 0件
不承認 4件
取下 92件
審査が完了し、承認されたものが約3%ですので、ほとんどの案件がまだ審査中です。
しかし、審査が終わったものだけを見ると、承認率92%です。
驚異的な数字です。
まだ予断を許しませんが、最新動向については、引き続き本サイトでも発信していきます。
<続報>
前回、承認率が92.3%と脅威の数字でしたが、ここから更に微増しました。
今後、国が「マズイ」と思って要件や運用を厳しくしないか心配です。
国庫帰属事例集(国の引取実績)
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情報公開請求の成果をまとめていますので具体的な実績が知りたい方は以下をご参照ください。
国庫帰属制度の実例
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相続土地国庫帰属制度の要件(利用条件)
相続土地国庫帰属制度には3つ利用条件があります。
- ヒトの条件…どういう方が利用ができるか?
- モノの条件…どういう土地であれば引取が認められるか?
- カネの要件…どれくらいのお金が必要か?
ヒトの条件(利用資格)
土地を相続した人はOK⇔生前贈与はNG
制度が利用できるのは、相続や遺言で土地を取得した相続人の方です。
これに対して、土地の購入者は対象外です。
具体的には、原野商法の被害者や売れない別荘地を購入した方には申請資格がありません。
原野商法の被害に遭った方は、「売買」で土地を取得しているため、利用資格を満たさないのです。
別荘地の購入者も同様です。
ただし、原野商法の被害に遭った方や別荘購入者の相続人であれば、利用資格が認められます。
したがって、「原野商法でだまされて買った土地だから」「別荘地だから…」という理由で諦める必要はありません。
もう一つ、注意が必要な点があります。
相続人の方でも、生前贈与や家族信託(生前に隠居するような形で財産を子どもに譲る制度)を受けた方は対象外です。
生前贈与や家族信託は、「相続」ではないからです。
最近は、終活が大事だと言われます。
しかし、終活の一環でいらない土地を生前贈与してしまうとお子さんはこの制度が利用できなくなります。
具体的なチェック方法
なお、以上について、心配がある方は、土地の登記簿を見てください。
不動産の取得理由である「原因」欄に「●年●月●日相続」と書いてあればOKです。
【関連】名義が亡くなった親のままの場合
名義が亡くなったご両親の名義のままの場合にも、申請は可能です。
ただし、この場合、相続登記(名義を存命する相続人に変える手続)に必要な資料を提出する必要があります。
具体的には、例えば、以下のような資料です。
- 名義人の生まれてから死ぬまでの戸籍全部
- 相続人全員の最新の戸籍
- 遺産分割協議書又は遺言書
- 印鑑証明書
あくまでも例示ですので、具体的な書類はケースバイケースで違います。
まずは、上記の書類が手元にあるか確認してみましょう。
なお、私の個人的な見解としては、多少お金が掛かっても相続登記は早めにやっておいた方がよいと思います。
審査には半年から1年掛かると言われていますので、その間に、災害が起きて所有者に連絡しようと思ったけど、未登記で連絡がとれなかったとなると大変なことになります。
最近は災害も増えていますので、なお一層この点は注意したほうがよいです。
モノの条件(対象となる土地)
制度が利用できる土地は、国の審査に合格した土地です。
国の審査基準では、次のような土地が不合格になります。
門前払いされる土地
- 建物がある土地(更地しないとダメ!)
- 担保に入っている土地、貸している土地
- 地元の方が利用している土地(通路、墓地、境内地、水路等)
- 土壌汚染がある土地
- 境界が不明確な土地等
事案ごとに判断される土地
- 崖地
- 残置物(例:放置自動車、果樹や竹等)がある土地
- ゴミ等が埋まっている土地
- 公道までの通路がない土地等
- その他(災害・獣害危険区域、賦課金が必要な土地改良区等)
なお、これらの土地は、事案ごとに審査されます。
そのため、いずれかに該当する場合でも管理や売却に支障がなければ、審査に合格します。
法律専門家の中には「審査基準が厳しく、審査に合格する土地はない」と言う方がいます。
しかし、これは間違いです。
そもそも、国が土地の要件で申請を却下したり、不承認とするためには、それ相応の理由が必要です。
なぜなら、この制度は最終的に裁判所で白黒付けることができるのですが、裁判になった際に、客観的な証拠を出して、却下要件に該当するといえないと国が負けてしまうからです。
また、実際検討していくと、問題になる要件は限られています。
あきらめず、どうやったら審査に合格するか?という視点を持って不動産に向き合ってください。
ちなみに、国庫帰属制度で問題になる条件の一部には一見してわからない地雷のような要件があります。
私への相談者の中にも、その地雷の要件に気づかず、申請直前に国庫帰属制度が使えないことが判明した方がいます。
申請準備のために掛けた新幹線代や現地調査費が全て無駄になりました。
もちろん、今から、そういった地雷ポイントも丁寧に解説します。
なお、制度開始後の実際の運用については、順次、当サイトでも紹介させていただきます。
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山林や農地(田畑)を相続土地国庫帰属制度で国に返せる?
なお、よくある質問として、「山林や農地(田・畑)でも使えるの?」というご質問をいただきます。
いずれも利用可能です。
とりわけ、農地については、国庫帰属制度がおすすめです。
ただし、農地の中でも、青地と呼ばれる農業が盛んな地域の農地は申請が認められないケースが多いので注意してください。
これら山林や農地に関する留意点については、この点は次の記事をご参照ください。
【Q&A】なぜ山林を相続土地国庫帰属制度で手放すことが難しいと言われるのか?
【Q&A】相続土地国庫帰属法を使うなら農地がオススメ?弁護士が解説
相続土地国庫帰属法は原野商法の救世主?
最近、相続した原野を手放したいという相談が非常に増えています。
原野商法の被害にあった方のお子さん達がちょうど相続問題に直面しているためです。
このような方にとって相続土地国庫帰属制度は救世主になるのでしょうか?
私見ですが、相続土地国庫帰属制度は原野商法の救世主になりうる制度だと考えています。
この点は次の記事で詳細に解説していますのでご興味がある方はご覧ください。
別荘地は相続土地国庫帰属法で手放せる?
親世代が購入した使わない別荘地を相続土地国庫帰属制度で国に引き取ってもらうことは可能でしょうか?
結論としては、可能です。
ただし、注意点が主に3点あります。
- 更地になっていること(建物がある場合は解体が必要)
- 管理費の清算について管理会社ともめないこと
これらに問題があると、国の審査に合格できない可能性が高まります。
気になる方はご自身の物件を一度確認してみください。
建物がある土地
まず、建物がある土地は申請ができないとされています。
建物があるとダメな理由
建物は、一般に管理コストが土地以上に高額です。
老朽化すると、管理に要する費用や労力が更に増加するだけでなく、最終的には建替えや取壊しが必要になります。
このように建物は通常の管理・処分に多大な費用・労力を要することが明らかです。
そのため、建物が存在する土地は、承認申請をすることができません。
なお、山のような広大な土地の一部に建物が存在する場合であっても申請はできません。
建物を解体すべきか?
少し厳しすぎる気もしますが、建物がある場合、建物の取壊しが必要になります。
もっとも、本当に、取壊しするかは慎重に判断してください。
なぜなら、それがどんなボロ物件でも建物があれば、引き取ってくれる方が見つかる場合があるからです。
値段さえ気にしなければ、引き取り手が見つかる場合も少なくありません。
最近は、ボロ物件を売買できるマッチングサイトも増えています。
私であれば、建物があれば、国庫帰属制度は使いません。
むしろ、空き家バンク等のマッチングサイトなどの方法を使って引き取り手を探してみてください。
建物とは?
そもそも、国庫帰属制度でいうところの「建物」ってなんでしょうか?
「建物」とは、「屋根及び周壁又はこれに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるもの」です(不動産登記規則第111条)。
建物の登記は関係ありません。
登記がなくても、上記の意味での建物がある場合は却下されます。
物置小屋のような場合は、建物には該当しない場合があります。
ただ、この場合、地上に存する工作物として管理に過分の費用又は労力を要するかどうかによって、承認の可否を判断することとなります。
法務省の内部文書では、建物か工作物か迷う場合は工作物と判断して、管理や処分が大変かについて客観的な根拠があるかを審査することになっています。
建物の”登記だけ”が残っている場合
あと、時々あるのですが、建物は解体済みなのに登記だけ残っているということがあります。
この場合、滅失登記という手続が必要です。
もっとも、滅失登記が未了でも、相続土地国庫帰属制度の申請は却下されません。
申請者側で滅失登記がされない場合は、最終的に国の方で滅失登記を行うことになっています。
ただし、滅失登記自体は義務ですので、すみやかに行うことが望ましいです。
担保権や使用収益権が設定されている土地
次に、担保権や使用収益権が設定されている土地も引き取りの対象外です。
平たく言うと、誰かに貸している土地やお金を借りた際に担保に入れた土地がこの要件に抵触します。
もう少し詳しく説明します。
まず、ここでいう使用収益権とは、賃借権、地上権、地役権、入会権、森林経営管理法の経営管理権等があります。
要は所有者以外の誰かが使っている場合です。
例えば、農地の場合、地元の農家さんに貸していることがあると思います。
この場合は賃借権が設定されていることが多いです。
こういった場合は、使っている方から土地を返してもらってください。
登記がなくてもバレますので気を付けてください。
なお、賃借権が設定されている場合でも、登記がされていないケースが結構あります。
登記されていないからバレないだろうというのは間違いです。
例えば、農地の場合、法務局で農業委員会に照会を掛けますので早々に分かります。
また、法務局の方で、近隣住民や隣接地所有者へのヒアリングで判明する場合もあります。
その際、「あの土地は、●●さんが使っているよ」等の形で情報提供がされる可能性があります。
この場合は、申請者から賃借権等がないことを証明する書類(上申書)を提出する必要があります。
仮に説明ができたとしても、こういった点が明らかになると法務局も審査を慎重に進めますので、審査に時間が掛かる可能性が出てきます。
できるだけ申請前に土地をキレイにしてから申請してください。
土地内に電柱・電線がある場合
また、土地内に電柱があったり、土地の上空や地中に電線が通っていることがあります。
この場合、法的には、賃借権や地役権という権利が設定されていることがあります。
もっとも、法務省によると、自治体等が電柱を設置するために、土地のごく一部に利用権を設定している場合、一般的には「使用収益権」に該当しないこととされています。
例えば、自治体がマンホールや電柱を設置するためにごく一部に利用権を設定している場合は、「使用収益権」に該当しません。
もちろん、設置されている物があることで土地の管理や処分に過分の費用を要する場合は別ですが、直ちに却下にならない点は注意してください。
他方で、電線のために地役権が設定されている場合は却下される可能性があります。
電柱・電線があるから直ちにダメということではありませんので、該当がある場合は法務局の事前相談の際に確認することをおすすめします。
なお、近年は、電柱がある山を購入して賃料収入を得たいという方が増えてきましたので、そういった方にお譲りすることもご検討ください。
担保権が設定されている場合
次に、担保権が設定されている場合ということで、ここでいう担保権とは、抵当権、質権、先取特権等があります。
また、いわゆる譲渡担保権(所有権を担保目的で移すもの)についても、担保権に該当します。
なお、登記がされているか否かにかかわらず、これらの権利が設定されていることが発覚した場合は引き取りの対象外になります。
ご相談でよく見るのが、明治時代や大正時代に設定された抵当権が残っているケースです。
このような場合、債務がすでに完済されていたり、消滅時効が完成していたりすることがあります。
そのため、現実的には、抵当権が行使される可能性は低いです。
もっとも、相続土地国庫帰属制度では、抵当権の登記がある場合は承認申請をすることができません。
そのため、古い抵当権が残っている場合は、専門家(司法書士等)に依頼して登記を抹消してもらう必要があります。
その他(買戻特約、差押登記、仮処分の登記)
このほかにも、買戻特約、差押登記、仮処分の登記、譲渡担保権の登記等が残っていることがあります。
こういった登記がある場合も申請が却下されるため、登記簿を見て該当するものがないかをチェックすることが必要です。
地元の住民等が利用する土地(通路、墓地、水路、境内地等)
次に、地元住民の方などが利用する土地も引取り不可とされます。
このような土地を国が引き取ると、その管理に当たって使用者等との調整が必要であるなど、通常の管理・処分に多大な費用・労力を要するが明らかだからです。
「他人による使用が予定される土地」の具体例としては、以下の土地があります。
- 現に通路として利用されている土地
- 墓地
- 境内地(けいだいち※ざっくりいうとお寺の土地等)
- 水道用地、用悪水路又はため池として現在使用されている土地
それぞれ見ていきましょう。
現に通路として利用されている土地※最も問題になりやすい
まず、このなかで最も問題になりやすいのが、現に通路として利用されている土地です。
土地の地目が公衆用道路になっている場合は特に注意してください。
また、別荘地や宅地などを所有している方は、要注意です。
なぜなら、宅地と一緒に隣接する道を所有していることがあるからです。
しかも、相続人の方がその通路の存在を知らないということもあるため、やっかいです。
この場合、その隣接する道が、この要件に該当する可能性があります。
また、公図を見て細長い通路のような形をしている土地があれば、注意してください。
もっとも、このような土地でも、現在、通路や道路として使用されていない場合は申請は却下されません。
原野商法で騙されて買った土地や限界ニュータウンのような地域では、公図上、道があっても、現地は道として利用されていないというケースもあります。
法務局で不明点が残る場合は、地元住民にヒアリング等が行われます。
なお、通路として利用されていない場合でも、「共有」になっているときは要注意です。
この場合、共有者全員で申請する必要があるためです。
実際、宅地本体は国庫帰属制度の要件を満たすのに、通路があって、そちらが要件を満たさないため結局申請を諦めたという方も少なくありません。
(こういった場合、山林や別荘地を扱っているマッチングサイトに登録してみることも一案です。)
ご懸念がある場合は、登記簿を確認して共有になっていないか確認してみましょう。
山林の場合、林道や登山道が通っていることがあります。
これらも実際に利用されている場合は、「通路」に該当し、却下される可能性があります。
もっとも、作業道や管理歩道などは、土地の管理に必要な道ですので、通路には該当しません。
墓地
次に、土地内に墓石がある場合等も申請が却下されます。
登記簿の地目欄で「墓地」となっていて、現地に墓石がある場合が典型例です。
この場合、都道府県に墓地としての登録を確認してみましょう。
仮に登録がある場合は、申請が却下されます。
その場合、墓地の廃止の手続を行い、墓石も撤去しましょう。
廃止の手続をしても、墓石が残っていると、不承認とされる可能性があるため、注意してください。
境内地
同様に、境内地についても地目上、境内地となっていれば、要注意です。
具体的には次のような土地です。
- 本殿、拝殿、本堂、会堂、僧堂、僧院、信者修行所、社務所、庫裏、教職舎、宗務庁、教務院、教団事務所その他宗教法人の前条に規定する目的のために供される建物及び工作物(附属の建物及び工作物を含む。)
- 前号に掲げる建物又は工作物が存する一画の土地(立木竹その他建物及び工作物以外の定着物を含む。以下同じ。)
- 参道として用いられる土地
- 宗教上の儀式行事を行うために用いられる土地(神せん田、仏供田、修道耕牧地等を含む。)
- 庭園、山林その他尊厳又は風致を保持するために用いられる土地
- 歴史、古記等によつて密接な縁故がある土地
- 前各号に掲げる建物、工作物又は土地の災害を防止するために用いられる土地
ただし、実際に境内地として利用されていなければ、却下はされません。
逆に、地目が境内地になっていなくても、実際に境内地として利用されている場合は却下される可能性があります。
水路
なお、水路についても、引き取りの対象外です。
土地の地目が「水道用地」「用悪水路」「ため池」になっている場合は注意してください。
ただし、水路して現在使用されていない場合は申請が可能です。
土壌汚染されている土地
次に、土壌汚染されている土地についても引き取りが認められません。
土壌汚染対策法上の「要措置区域」や「形質変更時要届出区域」に該当すると申請者の方で積極的に汚染がないことを証明する必要があります。
そのため、ご懸念がある場合は、検索サイトで「<市町村名> <要措置区域>」「<市町村名> <形質変更時要届出区域>」と検索してみてください。
ただ、結論としては、この要件が問題になることは少ないです。
工場跡地でもない限り、土壌汚染が問題になることは少ないためです。
申請時に土壌汚染がないことを証明する必要もありません。
そのうえで、一応見ておこうと思いますが、まず、土壌汚染の基準ですが、土壌汚染対策法における環境省令で定める基準と同じです。
具体的には、おそれがある有害物質として土壌汚染対策法施行令(平成14年政令第336号)で規定されている26物質があります。
この26の特定有害物質は、土壌汚染対策法施行規則(平成14年環境省令第29号)において、
①第一種特定有害物質(揮発性有機化合物)
②第二種特定有害物質(重金属等)
③第三種特定有害物質(農薬等)
の3種類に分類されています。
物質ごとに土壌溶出量基準や土壌含有量基準等の基準値が設定されています。
(出典:土壌汚染対策法施行規則別表第四(第三十一条第一項関係))
もっとも、すべての事案で、土壌汚染がないことを調査したり、証明する必要はありません。
法務局の方でも、すべての案件で、現地の土を掘り返して調査することは想定していません。
現地で土地の変色や異臭等があり、明らかな異常が認められる場合もあり得ます。
このように土壌汚染の疑いが生じた場合に、申請者に確認が入ります。
そこでの弁明がうまくいかないと、土壌汚染の正式調査が求められることがあります。
この土壌汚染の調査を拒否すると、申請が却下される可能性が出てきます。
ただし、工場跡地等のように土壌汚染が疑われるケース以外は、土壌汚染の調査が必要なケースは少ないと考えられます。
なお、近いものとして、放射性物質が存在する土地、避難指示区域内の土地、ダイオキシンなど、特定有害物質ではないものの人体に有害と思われる物質が存在する土地等があります。
もっとも、これらに該当することをもって直ちに却下されるわけではありません。
境界不明地等(一番論点になりやすい要件)
「境界が明らかでない土地」についても引取の対象外です。
あなたの相続した土地の境界は明確になっていますか?
なかなか自信をもってYESと言える方は少ないのではないでしょうか。
そのような背景もあり、この要件を厳しいという専門家が多いです。
しかし、間違いです。
この要件が一番誤解しやすい要件であるため、丁寧に解説していきます。
まず、この要件の典型例として隣地所有者との間で境界争いがある場合が挙げられます。
また、申請者以外にその土地の所有権を主張する者がいる土地についても引取の対象外です。
他にも、図面と現地の状況が大幅に食い違う場合や現地で境界点が確認できない場合も引取対象外です。
こういった土地は、国が管理するうえで支障が生じることが明らかですので、引き取りの対象外とされました。
ここまでの説明を聞くと、「やっぱり要件が厳しいのでは?」と思う方が多いと思います。
専門家が誤解するくらいですから、当然のことです。
とりわけ、山林では、境界がわからないことが多いため、このように言われることが多いです。
しかし、詳細に見ていくと必ずしも厳しいものではありません。
この点は、審査の流れを見ると分かります。
相続土地国庫帰属制度における境界の判断方法
相続土地国庫帰属制度における境界の明確さは、主に次の2つ点から判断されます。
- 提出した境界の図面・写真と現地にズレがないか?
- お隣さんから、異議が出ないか?
まず、①提出した境界の図面・写真と現地にズレがないか?については、法務局の職員が現地に調査に入った際に現地の境界標と図面が一致している必要があります。
現地の状況が明らかに図面などと食い違う場合は申請が却下されます。
境界標がない場合、境界点を明らかにする目印を立てる必要があります。
ちなみに、境界標を自分で打ち込んだことがある人はいますでしょうか?
いないですよね。
この辺は一般の方にはかなり抵抗感があると思います。
しかし、国庫帰属制度の申請時に示す境界は、紅白ポール、プレートなどの設置で差し支えありません。
もちろん、一時的なものではだめですが、安定的に杭が打てるのであれば、ホームセンターで買ってきたものでも問題ないのです。
国が審査時や国庫帰属時(承認時)に判別できるようにしておきましょう。
以下は、法務局が推奨している杭の例です。
(出典:法務省「相続土地国庫帰属制度のご案内」より)
なお、一般的に、境界を明確化する場合、隣の土地の所有者と境界について合意した書面(境界確定書等)や境界確定図(測量図)を作成することがあります。
不動産の売買をしたことがある方であれば、見たことがあるかもしれません。
しかし、国庫帰属制度では、こういった図面を必要書類ではありません。
ただ、もし境界確認書等を保有している場合は、申請時に写しを添付することが推奨されています。
その方が審査が早く進みますから、お手元にあれば提出しましょう。
(過去に境界確認を行っていないか書類を確認してみてください。)
次に、②お隣さんから、異議が出ないか?については、法務局からお隣さん(共有地の場合は共有者全員)に手紙を出すことで確認します。
回答期限は2週間です(海外の場合は4週間)。
2週間経っても、返信がない場合、再度、通知をします。
この回答期限も2週間です。
これら2回のお手紙に対して、回答がなかった場合は、「異議なし」として審査が進められます。
お手紙が届かない場合も同様です。
ただし、例外として、現地調査の際に近隣住民から境界について異議が出た場合は、追加の対応が必要になる可能性があります。
この点も意外に思いましたか?
普通の不動産取引で、こんな適当な方法で境界を確認したと言えば、間違いなくクレームが入ります。
しかし、国庫帰属制度では、明確な異議が出なければよいのです。
異議が出ても具体的な理由が不明な場合は、争いなしと判断されます。
ただ、逆に言えば、明確な異議が出てしまうと審査がストップしてしまいます。
そのため、申請前に、お隣さんに手紙を送っておくとスムーズに進みます。
法務局から、いきなりお手紙が来れば、誰でもびっくりしますよね?
そのため、あらかじめ、国庫帰属制度を申請する旨を伝える手紙を送っておくと丁寧です。
もしかすると、国に返すなら、こちらで引き取ろうか?と言ってくれるかもしれません。
実際、そのような形で引き取りが決まることがあります。
私も経験があります。
丁寧にコミュニケーションをすれば、異議が出ることは少ないです。
国に返したい土地=いらない土地のお隣はいらない土地ということが少なくないため、積極的に異議を言う人が少ないんですね。
ただ、それでも、もし、お隣さんから異議が出た場合はどうなると思いますか?
安心してください。
この場合でも、直ちに却下になりません。
申請者の方で、お隣さんと調整することになります。
調整の結果、争いがなくなった場合は、引き続き審査が進みます。
ただし、猶予期間は2か月です。
遠方で調整に時間が掛かる可能性がある場合は、申請前にお手紙を出しておくことがよいでしょう。
なお、お隣さんが住所変更登記等をしていないため、お手紙が届かない場合があります。
このような場合、法務局の方で転居先の調査をすることはありません。
周辺住民の方等に聞いて問題がなければ、異議なしと判断されて、審査が先に進みます。
この辺は非常に重要な論点ですが、内容も難しいため、境界のことがよくわからないという方は無料相談をお申し込みください。
ただし、無料相談は予告なく終了することがあります。あらかじめご容赦ください。
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なお、誤解されやすいのですが、いわゆる筆界未定土地又は地図がない土地でも申請が認められる可能性はあります。
(出典:福岡法務局「『筆界未定地』について」)
あくまでも、申請者から土地の範囲が明確に示され、その土地の範囲について隣地所有者と認識が一致していれば争いがないものと判断することになります。
そのため、筆界未定又は地図がないことのみをもって、境界が明らかでない土地その他所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地として承認申請を直ちに却下することにはなりません。
また、法務局で発行してもらえる公図や地積測量図とズレがあっても直ちに却下されるわけではありません。
不法占拠者がいる場合
なお、境界不明と似て非なる問題として、不法占拠者や越境がある場合があります。
もし、現地に、不法占拠者がいる場合、その不法占拠者が時効という制度で所有権を取得していることがあります。
仮に時効が問題になる場合は、「所有権の存否又は帰属について争いがある土地」に該当し却下される可能性があります。
現地を確認して、第三者による使用の形跡がないかチェックしてください。
崖地
次に、崖地がある場合、状況によって引き取りが認められないことになっています。
この要件も誤解が多い要件です。
まず、国庫帰属制度でいうところの「崖」に該当するのは、勾配が30度以上で高さが5メートル以上である必要があります。
これに満たない場合はそもそも崖地になりません。
そのうえで、上記の意味での崖地に該当しない場合は、国土地理院で公開されている「重ねるハザードマップ」を見てみてください。
特に、申請地が急傾斜地崩壊危険区域等に該当する場合は要注意です。
もちろん、この区域に該当するからといって絶対的に国庫帰属が認められないことではありません。
というのは、引き取りが認められないのは、崖の中でも、周囲に危険を及ぼすものです。
具体的には、民家、公道、線路等が付近に存在し、擁壁工事を実施しなければ、近隣住民等の生命身体に被害が及ぶことが客観的かつ具体的に認められる場合には、国庫帰属が認められないことになります。
他にも、①亀裂が入った崖、②小石が落ちてくる崖、③濁った水が出る崖等は危険な崖の可能性があります。
このような土地に該当するか否かは、法務局が地方公共団体や地方整備局の砂防部局等に意見を確認することになっています。
懸念がある方は、あらかじめ地方公共団体や地方整備局の砂防部局等に意見を聞いてみましょう。
逆に言えば、そういった危険がない場合はこの要件は問題になりません。
例えば、民家等が近くにない山林の場合、山林内に多数の崖があっても、擁壁工事等の必要はないため、問題になりません。
そのため、まずは、近くに民家、公道、線路等がないかが大事なポイントになります。
なお、仮に民家等が近くにあっても、擁壁工事が既になされている場合は、引き取りが認められる可能性があるため、合わせてこの点も確認しておきましょう。
(出典:神奈川県HP│急傾斜地崩壊防止工事についてhttps://www.pref.kanagawa.jp/docs/w5k/cnt/f507/p6337.html)
土地の管理・処分を阻害する有体物(例:放置自動車、樹木等)が地上にある土地
土地上に残置物がある場合も、状況によって引き取りの対象外です。
みなさん、残置物というと、どういったものをイメージしますか?
不法投棄されたゴミあたりがイメージしやすいでしょうか?
国庫帰属制度では、以下のような物がある引き取り不可とされていおます。
- 果樹園の樹木
- 樹木のうち、民家、公道、線路等の付近に存在し、放置すると倒木の恐れがある枯れた樹木や枝の落下等による災害を防止するために定期的な伐採を行う必要があるもの
- 竹のうち、放置すると周辺の土地に侵入するおそれや森林の公益的機能の発揮に支障を生じるおそれがあるために定期的な伐採を行う必要があるもの
- 過去に治山事業等で施工した工作物のうち、補修等が必要なもの
- 建物には該当しない廃屋
- 放置車両
ただ、これらがあれば即アウトということではありません。
残置物があることで管理や処分に過分な費用が掛かることを国側で具体的・客観的に言える必要があります。
例えば、①果樹園の樹木については、一般的に、放置しておくと鳥や獣や病害虫の被害の要因となる関係で、定期的に枝の剪定や農薬の散布などの作業が必要になるため、こういった土地は引取の対象外になる可能性が高いといえます。
他方で、森林において樹木があるのはむしろ通常ですので、安全性に問題のない土留めや柵がある場合などには、引取が認められることがあります。
②民家、公道、線路等の付近に存在し、放置すると倒木の恐れがある枯れた樹木や枝の落下等による災害を防止するために定期的な伐採を行う必要がある樹木については、具体的には、カシノナガキクイムシによる被害木などが想定されています。
カシノナガキクイムシによる被害木は、夏に真っ赤に枯れ上がるといわれています。
(出典:東北森林管理局HPより/https://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/syo/asahi/siryou/kasinaga.html)
また、樹木自体は切られているものの切り株が残っている場合は、基本的には残置物に該当しないと考えられます。
③放置すると周辺の土地に侵入するおそれや森林の公益的機能の発揮に支障を生じるおそれがあるために定期的な伐採を行う必要がある竹がある場合も国庫帰属が認められていません。
竹は、繁殖力が非常に強く周囲の土地に侵入する可能性が高い場合があるためです。
また、竹の根は通常の樹木と比べて音が地表に近い部分で広がるため、森林の公益的機能の発揮に支障が生じる可能性が高いため、引き取りの対象外とされています。
④過去に治山事業等で施工した工作物のうち、補修等が必要なものについても引き取りの対象外です。
こういった工作物は維持管理に多大な費用が掛かるためです。
⑤建物には該当しない廃屋についても対象外です。屋根が崩壊するなどして廃屋になっている場合、廃屋の撤去や維持・管理にかなりのコストが掛かるためです。
⑥放置車両がある土地も引き取りの対象になりません。放置車両の撤去に費用を要するためです。
注意が必要なのは、これらに該当すれば、国庫帰属が絶対的に認められないというわけではないという点です。
国側で管理や処分が大変であることを客観的かつ具体的な根拠をもって示せなければなりません。
そのため、逆に、土地に有体物があっても、以下のような場合であれば、直ちに却下されることはありません。
- 宅地に樹木が存在するが、通常の管理または処分に影響がなく、隣接地にも特段の影響を及ぼす可能性が低い場合
- 田畑に通常の管理または処分に影響しない小屋が存在する場合
- 森林に通常の管理または処分に影響しない樹木がある場合
埋設物がある土地
埋設物等の有体物が地下にある土地についても、状況次第で引取不可になります。
地下に埋まっているというと、みなさんは何をイメージしますか?
徳川埋蔵金でも埋まっていれば、よいですが、そんなことはないでしょう。
国が引き取り不可としている埋設物としては、次のようなものがあります。
- 管理を阻害する産業廃棄物や屋根瓦などの建築資材(いわゆるガラ)
- 地下にある既存建物の基礎部分やコンクリート片
- 現在使用されていない古い水道管、浄化槽、井戸
- 大きな石
こういった土地は、その管理・処分に制約が生じ、その撤去のために多大な費用がかかる上に、場合によっては周囲に害悪を発生させるおそれがあるためです。
なお、③古い水道管、浄化槽、井戸については、現在も使用が可能な水道管やガス管などの一般的なものは、該当しない可能性があります。
また、埋設物の有無の判断方法ですが、申請地の過去の用途の履歴について、申請者の認識や地方公共団体が保有している情報等を調査することにより、判断することが想定されています。
そのうえで、現地調査の際に、不自然な掘り返し等がないかを確認することになります。
なお、埋設物というと、弁護士は、埋蔵文化財包蔵地を思い浮かべます。
これは地下に土器や石器等が埋まっている可能性があるというエリアという意味です。
もっとも、埋蔵文化財包蔵地に該当する場合であっても、直ちに国庫帰属が認められないというわけではありません。
国の方で、客観的かつ具体的に、管理・処分が困難な埋設物があることを示さなければなりません。
もし、国の方で懸念が生じた場合、申請者に連絡が行きます。
申請者は上申書を提出し、地下に管理・処分が困難な埋設物がないことを説明する必要があります。
このような上申書が提出されたにもかかわらず、国の方で疑義が払拭できない場合は、さらに追加の調査(専門業者による地下埋設物調査報告書)を求められることがあります。
ただ、この辺も問題になる土地はごく限られたものと思われます。
公道に通じない土地
隣地所有者等との問題を解決しなければ利用できない土地も引取りの対象外です。
具体的には2つの類型があります。
- 公道までの通路がなく、かつ、実際に公道に出られない土地
- ①以外で所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(軽微なものを除く)
こういった土地は、管理を行う上で障害が生ずるおそれが高いからです。
②の具体例としては次の3つがあります。
- 所有者以外の第三者に不法に占有されている土地
- 隣接地から継続的に流水がある土地
- 管理費が発生している別荘地
なお、一見これらに該当するように思われても、第三者による立ち入りが一時的である場合は問題ありません。
生活排水等の流入が軽微な場合も同様に問題ありません。
別荘管理費についても、必ず引取不可とされるわけではありません。
引き取りが不可とされるのは、国庫帰属後に管理会社との紛争が確実と見込まれる案件です。
具体的には、管理会社が国庫帰属後に別荘地の管理のために、国に管理費を請求する態度を明確にし、かつ、国が管理を支払わない場合には、国庫帰属した土地の使用を制限する旨を表明している場合です。
逆に、管理会社が倒産している、管理会社から10年以上連絡がない等の事実関係がある場合は、申請が認められる可能性があります。
より確実なのは、管理会社の見解を聴取することです。
例えば、以下のような内容が聴取できればよいです。
- 管理委託契約上、管理費用の支払義務が存在しないこと
- 管理会社から国に管理費用を請求することがないこと
申請者からの提出資料により、管理会社からの請求がないと判断されれば、審査の際に国(法務局)から管理会社に問い合わせなどは行われませんので、申請者の方でできる限りの準備ができればベターです。
その他
最後に、その他として次のような土地が引取りの対象外とされています。
- 土砂崩落、地割れなどに起因する災害により、当該土地又は周辺の土地に存する人の生命、身体又は財産に対する被害の発生防止のため、土地の現状に変更を加える措置を講ずる必要がある土地(軽微なものを除く。)
- 鳥獣や病害虫などにより、当該土地又は周辺の土地に存する人の生命若しくは身体、農産物又は樹木に被害が生じ、又は生ずるおそれがある土地(軽微なものを除く。)
- 適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備を要する森林(軽微なものを除く。)
- 国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地
- 国庫に帰属したことに伴い、法令の規定に基づき承認申請者の金銭債務を国が承継する土地
災害危険区域
例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 土砂の崩壊の危険のある土地について崩壊を防ぐために保護工事を行う必要がある場合
- 大きな陥没がある土地について人の落下を防ぐためにこれを埋め立てる必要がある場合
- 大量の水が漏出している土地について排水ポンプを設置して水を排出する必要がある場合
これらに該当するかは、法務局の現地調査後に関係機関に照会をすることで確かめることになっています。
もっとも、地割れや陥没があり、明らかに危険な状態であることがわかれば、その時点で却下される可能性はあります。
なお、ここで求められている危険性は、抽象的な危険性では足りず、客観的かつ具体的なものでなければなりません。
また、工事が必要という点についても、単に、将来工事の必要性があるという抽象的なものではダメです。
災害を防止するための工事が必要であることについて、具体的かつ客観的に証明され、かつ、その工事に必要な費用の概算が軽微ではないことが示される必要があります。
森林病害虫がいる土地
これは、病害虫を駆除する必要がある土地を意味しています。
具体的には、松食い虫などの森林病害虫が生息している場合が念頭に置かれています。
(出典:関東森林管理局https://www.rinya.maff.go.jp/kanto/policy/business/hogozigyou/matsukui.html)
そのため、主に問題になるのは、森林や原野です。
なお、生息する動物の危険性が低い、又は危険であっても生息する数が極めて少ないなどの理由により、被害の程度や被害が生ずるおそれの程度が軽微であるような場合は、引き取ることができます。
単に、熊が生息している可能性がある、イノシシが出没したらしい、スズメバチの巣があるらしいという抽象的な情報であれば、問題ありません。
審査の判定手法としては、次の点を確認します。
- 農地の場合:周辺の地域における農用地の営農条件に著しい支障が現に生じているかどうか
- 山林の場合:森林病害虫等の発生により駆除やまん延防止のため措置を現に必要としているかどうか
国による森林整備が必要な森林(山林)
こちらは、主に森林として利用されている土地が問題になります。
その中でも、国による整備(造林、間伐、保育)が必要な森林(山林)は引き取りの対象外とされています。
具体的には、次のような土地が該当します。
- 人工林のうち、間伐の実施を確認することができないもの
- 天然林のうち、標準伐期齢に達していないもので、かつ、一定の生育段階に到達するまで更新補助作業が生じる可能性があるもの
人工林とは、主に木材の生産目的のために、人の手で種を播いたり、苗木を植栽して育ている森林をいいます。
天然林とは、自然の力で育ち、人手が入っていないか、長い間、人手の入った痕跡がない森林をいいます。
標準伐期齢(ひょうじゅんばっきれい)は、概ねスギで35~50年、ヒノキで45~60年、カラマツで30~40年とされています。
更新補助作業とは、樹木の世代交代のため、目的を達した成熟林分を伐採利用して、後継林分を育てるために実施する発芽条件の改善、稚樹の補充等の作業をいいます。
この要件に該当するか否かの確認方法としては、まず、市町村に問い合わせをして、市町村森林整備計画の対象地になっているかを確認します。
そのうえで、対象になっている場合は、以下を確認します。
- 造林樹種、造林の標準的な方法その他造林に関する事項
- 間伐を実施すべき標準的な林齢、間伐及び保育の標準的な方法その他間伐及び保育の基準
これらの基準に照らして、追加的に造林、間伐又は保育を実施する必要があると認められるか否かが判断基準となります。
ただし、一般の方がこれらを判断するのは難しいといえます。
市役所の森林関係の部署や森林組合などに聞いてみることをおすすめします。
なお、国の審査の際は、森林管理局が現地を調査することになっています。
土地改良区の賦課金が発生している農地等
典型的には、水利費等の費用(賦課金)が発生している土地改良区内の農地です。
下水道の受益者負担金が発生している土地も該当します。
金額にかかわらず、これらの費用が発生している場合には、土地を引き取ることはできません。
金銭債務を消滅させた場合は引き取りの可能性が出てきます。
また、決済金という脱退のためのお金を支払うことを条件に、国が引き取った後に管理費を国に請求しないという確約が得られれば、引き取りの可能性も出てきます。
しかし、こういった対応が確実に認められるかは現時点で不透明です。
農地に関してはこの要件が一番のネックになります。
カネの条件(手数料・負担金)――相続土地国庫帰属制度の費用
相続土地国庫帰属制度の利用にあたっては、次の3つのお金が必要です。
- 審査手数料
- 負担金
- 専門家報酬(依頼する場合のみ)
①審査手数料
まず、①審査手数料については、1筆1万4千円です(土地は1筆2筆と数えます。)。
審査手数料は、申請書に収入印紙を貼って納付します。
収入印紙は郵便局で購入可能です。
なお、納付後は、審査手数料は返還されません。注意してください。
申請を取り下げた場合や、審査が不合格になった場合も返還されません。
審査手数料自体は、低額に抑えられていますが、筆数(土地の数)が多くなると費用も馬鹿になりません。
その場合は、合筆という複数の筆を一つにまとめる手続を行って
、筆数を減らすことも検討してみてください。
②負担金
また、審査に合格した際は、10年分の管理費用を『負担金』という形で納める必要があります。
具体的には、原則20万円としつつ、①宅地、②農地、③山林については、面積に応じて負担金が変動することになっています。
例えば・・・
- 住宅地の宅地の場合…200㎡で793,000円(なお、100㎡だと約55万円)
- 優良農地等の場合…200㎡で450,000円(500㎡だと約72万円、1,000㎡だと約110万円)
- 山林の場合…200㎡で221,800円(1000㎡で約26万円、10,000㎡(1ha))
となります。
より具体的な金額を知りたい方向けに、次の記事で詳細を解説していますので、こちらも必ず読んでください。
③専門家報酬(依頼する場合のみ)
相場はまだありませんが、数十万円程度は掛かると思っておいたほうがよいでしょう。
また、審査に落ちた場合でも支払が必要になることが一般的です。
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なぜ利用条件があるの?――税金で管理するため
このように「ヒト」「モノ」「カネ」の観点から様々な条件が付されたのは、なぜでしょうか?
それは、国が引き取った土地は税金で管理するからです。
無条件に土地を引き取ると税金の負担が重くなるため、審査基準があるのです。
また、国が無条件に土地を引き取ると、土地所有者が「どうせ国が引き取ってくれるなら、管理は適当でいいや」と土地の管理をおろそかにする可能性があります(モラルハザードといいます。)。
このような理由により、先に述べた様々な利用条件が定められることになりました。
先祖から引き継いだ土地ですから、国に返す際はキレイにして返しましょうということです。
手続:①申請→②審査→③合否通知
法務省によると、審査には半年から1年ほどの期間が掛かるといわれています。
どういった手続の流れになるかを以下で解説します。
自分で相続土地国庫帰属制度を申請した方の体験談
なお、ご自身で申請を希望する方は以下の記事もご参照ください。
また、インタビュー動画もありますので合わせてご覧ください。
申請:窓口は法務局!
まず、制度の利用希望者は申立手数料を支払った上で、申立てを行う必要があります。
申請窓口は、法務局です。市役所ではありませんので、ご注意ください。
法務局がピンとこない方は、次の記事で詳細を解説していますのでこちらをご覧ください。
概ね県庁の近くの合同庁舎という建物の中に入っています。
税務署や労基署が一緒に入っていることが多いです。
申請に必要な書類は?
申請にあたっては、所定の申請書の提出が必要です。
また、申請書に加え、次の書類が必要になります。
- 印鑑証明書
- 公図(法務局で取得可)
- 現地写真
- お隣との境界がわかる写真
この中でも、③④は現地に行って写真を撮る必要があるため要注意です。
先日、法務局の担当者に話を聞いたところ、③現地写真や④お隣との境界がわかる写真を用意することに苦戦する方が多いようです。
とりわけ、現地に行ったことがない方は専門業者などにお願いする必要があります。
当サイトでは、全国各地の専門家へ協力依頼をできる体制を構築していますので、お気軽にお問い合わせください。
詳細は次の記事で解説していますので関心がある方はご覧ください。
これらの必要書類をどうやって作成すれば、審査に通りやすいか?等、制度開始後の実際の運用については、順次、当サイトでも紹介させていただきます。
これらの情報を見落としたくない方は当サイトのLINE公式アカウントを登録してください!
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相続土地国庫帰属制度の相談が可能な専門家は弁護士?司法書士?
一般の方にとって、相続土地国庫帰属制度の申請は、かなり難しいものです。
専門的な法律知識が必要になる場合が多いです。
集める資料も一般の方が耳慣れないものばかりです。
こういった場合、相談相手は弁護士がよいでしょうか?
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将来、審査が厳格化される可能性があるからです。
理由は次の記事で詳しく解説しています。
【Q&A】相続土地国庫帰属制度は開始直後に申請した方がよい?
この制度を利用して少しでも早く土地を手放したいという方は今から準備を始めておくことをおすすめします。
審査:現地に職員が来ます!
次に、申請窓口となる法務局にて制度の利用条件を満たしているかの審査を行います。
まず、書面審査を行います。
不備があれば、訂正を指示されます。
また、関連する役所にも照会を掛けます。
ブラックリストに該当する点がないかを確認するためです。
お隣さんにも手紙を送り、境界に疑義がないかも確認します。
お隣さんとしては、役所から手紙が来ると、びっくりします。
申請前にご連絡しておくことがベターです。
(なお、当サイトの弁護士に依頼する場合は、弁護士にて対応いたします。)
書面審査後に、法務局の職員が、実際に現地に行って調査を行います。
なお、当サイトでは、50件以上の相談実績があります。
調査時の失敗例や問題点も把握しています。
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合否通知(承認):ここで負担金の納付が必要になります。
審査が完了し、要件充足が認められた場合、国への名義変更が許可されます。
これを『承認』といい、申請者に書面で通知されます。
この通知書には、先ほど説明した負担金の額も記載されています。
そして、負担金を納めたところで、正式に土地が国に移ることになります。
もし、負担金が思ったよりも高いと感じた場合は、負担金を支払わなければ、国には帰属しません。
なお、手続の詳細は、次の記事で解説していますので興味がある方はご参照ください。
よくある質問
- 相続土地国庫帰属制度開始前に相続した土地も対象ですか?
-
対象です。
- 相続登記をしていません。このような土地も申請できますか。
-
可能です。国が相続登記を代わりに行います。ただ、その関係で相続登記に要する書類(戸籍等)を提出する必要があります。
- 期限は3か月と聞いたけど違うのですか?
-
相続から何十年経っていても、この制度は利用できます。相続放棄と呼ばれる制度には、自分が相続人になったことを知ってから3か月という期限があります。他方で、相続土地国庫帰属制度にはそのような期限はありません。
- 傾斜のある果樹園は引取の対象になりますか?
-
慎重な検討が必要です。果樹園はものによって傾斜にあることがあると思いますが、その場合、勾配が30度以上であり、かつ、その高さが5メートル以上であると引取不可とされる可能性が高まります。また、果樹があると、管理が困難と国に判断される可能性がありますが、果樹の状況はいかがでしょうか。特に獣害の危険があると引取が難しくなります。ご自身が相続された土地をご確認ください。
- 境界の目印として、どのようなものが必要ですか?
-
紅白ポール、プレートなどでOKです。ただし、国の審査や引取後に国有地として管理する関係で一時的なものではダメです。
- 大正時代の古い抵当権(債務は数円)があるのですが、引取可能ですか?
-
引取不可です。弁護士や司法書士に抵当権の抹消を依頼してください。
- 山が10筆あります。負担金はいくらになりますか?
-
人の手が入っておらず、雑草等が生えているにすぎない原野と呼ばれる土地の場合、1筆20万円となり、10筆だと200万円となります。ただ、土地が隣接していれば、まとめて申請ができ、その場合の負担金はまとめて20万円となります。他方で、雑草だけではなく、樹木等がある場合は、山林となり、面積に応じて負担金が決まります。具体的な算定基準は以下のとおりです。隣接していれば合算申請ができる点は原野と同じです。
- 田んぼが100坪あります。負担金はいくらですか?
-
負担金は原則20万円ですが、次のいずれかの農地については、100坪(≒330㎡)で578,992円になります。
- 都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域内の農地
- 農業振興地域の整備に関する法律の農用地区域内の農地
- 土地改良事業等の施行区域内の農地
- 相続した市街化調整区域の農地(田んぼ、畑)も対象なのでしょうか?
-
対象になります。もちろん、他の審査基準に引っかかり不合格となった場合は、引取が認められないこともあります。
- 境界が不明確だと引取不可と聞きましたが、専門家に測量をお願いしないといけないのですか?
-
いいえ。測量は必須ではありません。境界の場所を写真で撮影し、お隣さんや国から疑義が出なければ、審査に合格できる可能性があります。
- 制度を利用する際に、準備しておくとよい物・資料はありますか?
-
登記簿、公図、地積測量図等です。現地の写真も必要になりますが、それは専門家に相談しながら作成することが望ましいです。
- 10年分の管理費を負担金として支払った後に追加のお金を徴収されることはありますか?
-
ありません。負担金の納付により、所有権が国に移りますので、その後は国が税金で管理することになります。
- 国の審査にどの程度の期間が掛かりますか?
-
制度を所管する法務省民事局によると、制度開始からしばらくの間は、承認申請の受付後、半年~1年程度の期間が掛かるものと思われます。本制度が過去に例のない新しい制度であり、制度開始当初は調査に時間を要する可能性があるからです。
- 承認申請中に売却先が見つかりました。どうすればよいですか。
-
売却前に申請書を提出した法務局に連絡をして、申請の取下げをしてください。なお、この場合も審査手数料は帰ってきませんのでご注意ください。
- 国から、審査に引っかかる物・事情があると言われた場合、どうすればよいですか?
-
問題になっている物や事情を取り除くことで、引き続き審査をお願いすることができます。ただし、相当の期間までに状況が改善しない場合は引き取ることはできませんのでご注意ください。
- 申請者は、法務局が行う実地調査に同行する必要がありますか。
-
原則として不要です。申請土地の所在位置に疑義がある場合や境界の場所に疑義がある場合は、法務局から同行の依頼があります。その際、同行のための費用はご自身で負担いただくことになります。正当な理由がなく同行を拒否した場合は、承認申請が却下されますのでご注意ください。
- 実地調査への同行を求められた場合、第三者に依頼することは可能ですか?
-
事情をよく知る家族や専門家(弁護士、司法書士、行政書士、土地家屋調査士)に依頼することができます。
- 10年分の管理費を負担金として支払ってから1年後に、国が土地を売却した場合、9年分の負担金は返ってきますか?
-
返ってきません。
- 現地と登記の面積が違いそうですが、問題はありますか?
- 法律や不動産に詳しくないのですが、自分でも申請できますか?
-
可能ですが、大変だと思います。民法、不動産登記法、農地法、農振法、土地改良法、土壌汚染対策法をはじめ法律や不動産に関する専門知識が関係してくるため、これらの知識がないと審査基準や手続で間違ってしまうリスクが高いです。当サイトでは、無料相談を受け付けていますのでご不安があればご相談ください。
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いらない土地を国に返す「国庫帰属制度」をもっと詳しく知りたい
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相続土地国庫帰属制度の解説動画
そもそも、相続土地国庫帰属制度(国庫帰属制度)とは?――いらない土地を国に返す制度!?
相続土地国庫帰属制度とは、令和3年に出来た「相続した不要な土地を国に返す制度」のことです。
端的に「国庫帰属制度」と呼ばれることもあります。
そして、相続土地国庫帰属制度を定めた法律が相続土地国庫帰属法です。
法律の正式名称は、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」です。
なぜ相続土地国庫帰属制度ができたの?法律の目的!
これまでは、いらない土地を相続した場合でも、その土地だけを手放すことはできませんでした。
その結果、不要な土地が放置され、所有者が分からなくなる等の問題が生じていました。
そこで、相続等で取得した不要な土地を国に返すことができる制度として相続土地国庫帰属制度が創設されました。
すなわち、所有者が分からなくなる等の問題が生じる前に国で土地を引き取ってしまおうというのが相続土地国庫帰属法の目的です。
よくある誤解①この制度は土地や建物を国に寄付できる新制度なの?
なお、相続土地国庫帰属制度のことを「土地や建物を国に寄付できる新制度」と理解されている方がいらっしゃいますが、違います。
まず、「建物」については国は引き取りません。
また、「寄付」という点も異なります。
「寄付」は、一般的に手放す側と引き取る側の間の契約(贈与契約)により行います。
相続土地国庫帰属制度は国と契約を結ぶのではなく、国の判断で土地を引き取るという制度です。
よくある誤解②この制度は土地を自治体へ寄贈することで必ず引き取ってもらえる制度なの?
土地を手放したい方は、「無料でよいから、土地を自治体に寄付したい」とおっしゃります。
もっとも、自治体が寄付を受け付けるのは例外的な場合です。
例えば、公共事業の予定地や公共道路として既に利用されている土地です。
ただ、こういった寄付への根強い要望があることもあります。
そこから、相続土地国庫帰属制度のことを、土地を自治体に寄付することができる制度(しかも自治体が必ず引き取ってくれる制度)と誤解する方がいらっしゃいます。
しかし、相続土地国庫帰属制度は、引渡し先が国であり、また、引取りの対象は審査に合格した土地です。
そのため、相続土地国庫帰属制度は、土地を自治体へ寄贈することができる制度で、しかも自治体に必ず引き取ってもらえる制度ではありません。
相続土地国庫帰属制度と相続放棄・土地所有権放棄等との違い
相続土地国庫帰属制度は、相続放棄、相続税の物納制度、土地所有権の放棄などに近いところがありますが、これらにはない、次のような特徴があります。
- いらない土地・希望した土地だけを国に引き取ってもらえる。
- 相続税が発生しない場合でも利用できる。
- 国の審査を受ける必要がある。
これまでの制度との違いについては次の記事で解説していますので興味がある方はご参照ください。
【何が違う?】相続土地国庫帰属制度と土地所有権の放棄等の隣接制度の違い
相続土地国庫帰属法の条文を見たい!
相続土地国庫帰属法の詳しい条文は、法務省のサイトやe-GOV法令検索のサイトで閲覧できます。
政令(相続土地国庫帰属法施行令)とパブリックコメントを見たい!
国庫帰属が認められない土地の詳細や負担金の算定方法を定める政令(相続土地国庫帰属施行令)が令和4年9月29日に公布されました。
条文は法務省のサイトから閲覧できます。
なお、この政令とこの政令に対するパブリックコメントの結果については、こちらの記事で解説しています。
余談――相続土地国庫貴族法?相続土地国家帰属法?
相続土地国庫帰属法は、言葉としても非常にわかりにくいのですが、よくある間違いとして、相続土地国庫貴族法と言われたり、相続土地国家帰属法と言われたりすることがあります。
いずれも間違いですのでご注意ください。
もっとわかりやすい名称になるといいのですが、法律って無駄に難しいですよね。
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※月~金 10:00-17:00まで(不在時は折り返します)
弁護士 荒井達也
群馬弁護士会所属。負動産問題に注力する弁護士。読売新聞などの全国紙からの取材対応や専門書の出版等を通じて相続土地国庫帰属制度や負動産の処分方法を解説している。
詳細はこちら→プロフィール詳細
参考文献
法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」
法務省民事局「相続土地国庫帰属制度について」
村松秀樹他「Q&A令和3年改正民法 改正不登法 相続土地国庫帰属法」(きんざい)
荒井達也「Q&A令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響」(日本加除出版)