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弁護士 荒井達也
弁護士として国庫帰属制度の制定に関与。相談も100件以上対応。申請済みの案件・申請準備中の案件に多数関与。他にもTV・新聞等、専門書出版などを通じて国庫帰属制度や負動産の処分方法を発信している。
2023年から使い道のない土地を国に引き渡せる新制度とは?
相続土地国庫帰属制度を一言でわかりやすく言うと・・・
相続土地国庫帰属制度(そうぞく・とち・こっこ・きぞく・せいど)とは、相続した土地を国が引き取ってくれる制度です。
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相続土地国庫帰属制度の利用条件・要件
もっとも、相続土地国庫帰属制度にはヒト、モノ、カネの3つの利用条件があります。
- ヒトの条件…どういう方が利用ができるか?(利用資格)
- モノの条件…どういう土地であれば引取が認められるか?(土地の要件)
- カネの要件…どれくらいのお金が必要か?(審査手数料と負担金)
ヒトの条件(利用資格)
まず、相続土地国庫帰属制度を利用できるのは、相続や遺言で土地を受け取った相続人です。
一般的には配偶者や子どもが相続人になることが多いです。
もっとも、子どもがいない方は、親や兄弟(さらには兄弟の子)が相続人になることもあります。
ただし、相続人であっても相続以外の理由で土地を取得している場合は申請資格が認められません。
例えば、親(被相続人)から子ども(相続人)が生前贈与で土地を取得した場合には、相続土地国庫帰属制度の申請はできません。
モノの条件(土地の要件)
相続土地国庫帰属制度では、管理や処分に多大な費用や労力を要する土地は引取の対象外とされています。
具体的には、引取対象外の土地がブラックリスト形式で定められており、このブラックリストに該当する土地は、国による引取りが認められません。
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カネの要件(審査手数料と負担金)
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相続土地国庫帰属制度を利用する際は、国に一定のお金を支払う必要があります。
まず、申請の際に1筆14,000円の審査手数料を納める必要があります。
次に、国の審査に合格した際に、10年分の標準的な管理費相当額を『負担金』という形で納付する必要があります。
この負担金は、原則20万円です。
ただし、①宅地、②農地、③山林については、面積に応じて負担金が増額される場合があります。
例えば、
住宅街の宅地の場合…200㎡で793,000円
優良農地の場合…200㎡で450,000円
山林の場合…200㎡で221,800円
となります。
相続土地国庫帰属制度と相続放棄の違い
近い制度で相続放棄という制度があります。
しかし、相続土地国庫帰属制度と相続放棄は違う制度です。
相続放棄は、すべての遺産の相続を拒否する制度です。
相続土地国庫帰属制度は、遺産を相続しつつ、使わない土地だけを国に引き取ってもらう制度です。
その他にも様々違いがありますが、以下のとおりです。
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相続土地国庫帰属制度のメリット
相続土地国庫帰属制度は、相続放棄と異なり、預貯金などの金融資産を相続しつつ、不要な土地だけを手放すことができます。
この点が相続土地国庫帰属制度のメリットと言われることが多いです。
ただ、実は真のメリットは、別のところにあります。
それは、引き取り手が国だから安心できるという点です。
実は、近年、負動産の処分方法が充実してきたこともあり、負動産を手放せている方はたくさんいます。
ただ、国庫帰属制度以外の方法で手放す場合、「信頼できる引き取り手を探すこと」が非常に難しいです。
もっとも、相続土地国庫帰属制度では、国が引取ります。
国が引き取るということは、引き取り後は国有地として適切に管理されるという安心感があります。
この点が最大のメリットです。
相続土地国庫帰属制度のデメリット
他方で、相続土地国庫帰属制度のデメリットはなんでしょうか?
よく聞くのは、手間暇、時間、お金が掛かるという点が挙げられます。
例えば、国に返還する際に負担金(原則20万円)を納付する必要があります。
また、国の手続には時間も掛かります。
現状、審査期間に半年から1年掛かると言われています(原則は8か月)。
もっとも、不要な土地を手放そうとすると、登記費用や諸費用等で数十万程度掛かることは珍しくありません。
さらに、負動産を放置すると、固定資産税や草刈りの費用などでお金が掛かります。
将来、相続が発生すれば、相続登記(不動産の名義変更)も必要になり、10万円以上のお金が掛かることもあります。
もっとマズいのは、詐欺業者や不誠実な方に捕まって、トラブルに巻き込まれることです。
こういった場合、想定される被害額は100万円以上になる可能性もあります(弁護士費用等)。
以上を踏まえると、デメリットと言われている点は必ずしもデメリットにはなり得ないといえます。
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相続土地国庫帰属制度の実績は?統計情報から徹底解説
相続土地国庫帰属制度の承認件数
令和6年3月31日現在で、248件が承認されています。
相続土地国庫帰属制度の利用者数・申請件数
令和6年3月31日時点での申請件数は1761件です。
相続土地国庫帰属制度の利用状況
令和6年3月31日時点での利用状況としては、田畑や宅地の利用が多い状況です。
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相続土地国庫帰属制度の相談件数
2023年8月末日時点で、全国の法務局に885件の承認申請がなされているとのことです。また、相談については、1万4000件を超えたとのことです(2023年10月4日付け法務大臣閣議後記者会見)。
相続土地国庫帰属制度の実例、事例、傾向が知りたい!
相続土地国庫帰属制度の実例!実際にやってみた人の話
![](https://souzokutochi-kokkokizoku.com/wp-content/uploads/2023/09/Experiences-300x211.jpg)
相続土地国庫帰属制度の標準処理期間と実例から見る期間
相続土地国庫帰属制度の標準処理期間(一般的な審査期間)は8か月です。
この点を踏まえて、国(法務省)は、審査には半年から1年ほど見てほしいといいます。
実例からみる審査期間は以下からご確認いただけます。
早い案件だと3か月程度で審査が完了するものもあるようです。
相続土地国庫帰属制度の費用は?●円あればOK!
実際に審査に合格した案件を見ると、概ね20万円から100万円程度で収まっている案件が多いですね。
相続土地国庫帰属制度って難しい?厳しい?専門家がぶっちゃけると・・・
みなさん、「相続土地国庫帰属制度」と聞いて、どのようなイメージを持っていますか?
「条件が多くて、厳しいんでしょ?」
「ネットで調べていたら、『この制度が使えるのは売れる土地』だと聞いて落胆しました」
「申請前に50万以上掛かて測量をしないといけないんでしょ?」
こういった感想お持ちではありませんか?
しかし、これらは、すべて誤解です!
確かに、私も制度開始前はこの制度の要件が厳しいと感じていました。
引き取った土地は国の税金で管理するから、ある程度厳しいのはしょうがないとも思っていました。
しかし、2023年末、国の引取りが認められた割合を示す承認率(成功確率)が93.4%であったことがわかりました!
93.4%の確率で国に引き取ってもらえる制度は、果たして条件が厳しいと思いますか?
実は、ここだけの話、「条件が厳しい」と言っている人は、国庫帰属制度のことを知らない人です。
さらに酷い場合だと、自分のサービスや商売に繋げるために、意図的に国庫帰属制度は使えないと言っていることもあります。
私は、これまで100件以上の相談を受けてきましたが、条件が厳しいとは思いません。
実際、私のご相談者様の中でも実際に国庫帰属制度で土地を手放した方やこの制度を申請して国の審査を受けている方がたくさんいます。
むしろ、条件が緩く、将来、法改正で条件が厳しくなったり、利用料金が上がらないか?という心配すらしています。
もちろん、どんな土地でも国が引き取るわけではありません。
申請する際はそれなりの準備も必要です。
ただ、国庫帰属制度の制定に携わった者として、国庫帰属制度のことをよく知らない方々が条件が厳しいというのはすごく歯がゆい思いです。
負動産で困っている方が多いのに、条件が厳しいの一言で、手放す可能性を切り捨てるのはいかがなものかと思います。
私は、現状の承認率の高さも踏まて、もっと、みなさんに国庫帰属制度を正しく理解してほしいと感じています。
よくある質問
- 相続土地国庫帰属制度開始前に相続した土地も対象ですか?
-
対象です。
- 相続登記をしていません。このような土地も申請できますか。
-
可能です。国が相続登記を代わりに行います。ただ、その関係で相続登記に要する書類(戸籍等)を提出する必要があります。
- 期限は3か月と聞いたけど違うのですか?
-
相続から何十年経っていても、この制度は利用できます。相続放棄と呼ばれる制度には、自分が相続人になったことを知ってから3か月という期限があります。他方で、相続土地国庫帰属制度にはそのような期限はありません。
- 傾斜のある果樹園は引取の対象になりますか?
-
慎重な検討が必要です。果樹園はものによって傾斜にあることがあると思いますが、その場合、勾配が30度以上であり、かつ、その高さが5メートル以上であると引取不可とされる可能性が高まります。また、果樹があると、管理が困難と国に判断される可能性がありますが、果樹の状況はいかがでしょうか。特に獣害の危険があると引取が難しくなります。ご自身が相続された土地をご確認ください。
- 境界の目印として、どのようなものが必要ですか?
-
紅白ポール、プレートなどでOKです。ただし、国の審査や引取後に国有地として管理する関係で一時的なものではダメです。
- 大正時代の古い抵当権(債務は数円)があるのですが、引取可能ですか?
-
引取不可です。弁護士や司法書士に抵当権の抹消を依頼してください。
- 山が10筆あります。負担金はいくらになりますか?
-
人の手が入っておらず、雑草等が生えているにすぎない原野と呼ばれる土地の場合、1筆20万円となり、10筆だと200万円となります。ただ、土地が隣接していれば、まとめて申請ができ、その場合の負担金はまとめて20万円となります。他方で、雑草だけではなく、樹木等がある場合は、山林となり、面積に応じて負担金が決まります。具体的な算定基準は以下のとおりです。隣接していれば合算申請ができる点は原野と同じです。
- 田んぼが100坪あります。負担金はいくらですか?
-
負担金は原則20万円ですが、次のいずれかの農地については、100坪(≒330㎡)で578,992円になります。
- 都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域内の農地
- 農業振興地域の整備に関する法律の農用地区域内の農地
- 土地改良事業等の施行区域内の農地
- 相続した市街化調整区域の農地(田んぼ、畑)も対象なのでしょうか?
-
対象になります。もちろん、他の審査基準に引っかかり不合格となった場合は、引取が認められないこともあります。
- 境界が不明確だと引取不可と聞きましたが、専門家に測量をお願いしないといけないのですか?
-
いいえ。測量は必須ではありません。境界の場所を写真で撮影し、お隣さんや国から疑義が出なければ、審査に合格できる可能性があります。
- 制度を利用する際に、準備しておくとよい物・資料はありますか?
-
登記簿、公図、地積測量図等です。現地の写真も必要になりますが、それは専門家に相談しながら作成することが望ましいです。
- 10年分の管理費を負担金として支払った後に追加のお金を徴収されることはありますか?
-
ありません。負担金の納付により、所有権が国に移りますので、その後は国が税金で管理することになります。
- 国の審査にどの程度の期間が掛かりますか?
-
制度を所管する法務省民事局によると、制度開始からしばらくの間は、承認申請の受付後、半年~1年程度の期間が掛かるものと思われます。本制度が過去に例のない新しい制度であり、制度開始当初は調査に時間を要する可能性があるからです。
- 承認申請中に売却先が見つかりました。どうすればよいですか。
-
売却前に申請書を提出した法務局に連絡をして、申請の取下げをしてください。なお、この場合も審査手数料は帰ってきませんのでご注意ください。
- 国から、審査に引っかかる物・事情があると言われた場合、どうすればよいですか?
-
問題になっている物や事情を取り除くことで、引き続き審査をお願いすることができます。ただし、相当の期間までに状況が改善しない場合は引き取ることはできませんのでご注意ください。
- 申請者は、法務局が行う実地調査に同行する必要がありますか。
-
原則として不要です。申請土地の所在位置に疑義がある場合や境界の場所に疑義がある場合は、法務局から同行の依頼があります。その際、同行のための費用はご自身で負担いただくことになります。正当な理由がなく同行を拒否した場合は、承認申請が却下されますのでご注意ください。
- 実地調査への同行を求められた場合、第三者に依頼することは可能ですか?
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事情をよく知る家族や専門家(弁護士、司法書士、行政書士、土地家屋調査士)に依頼することができます。
- 10年分の管理費を負担金として支払ってから1年後に、国が土地を売却した場合、9年分の負担金は返ってきますか?
-
返ってきません。
- 現地と登記の面積が違いそうですが、問題はありますか?
- 法律や不動産に詳しくないのですが、自分でも申請できますか?
-
可能ですが、大変だと思います。民法、不動産登記法、農地法、農振法、土地改良法、土壌汚染対策法をはじめ法律や不動産に関する専門知識が関係してくるため、これらの知識がないと審査基準や手続で間違ってしまうリスクが高いです。当サイトでは、無料相談を受け付けていますのでご不安があればご相談ください。
- 国の審査に合格しなかった土地などを引き取るという業者がいるのですが、信用してもよいですか?
-
中には真面目に営業している会社さんもいますが、詐欺業者もいますので、細心の注意を払ってください。
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-
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相続土地国庫帰属制度をもっと詳しく知りたい
相続土地国庫帰属制度に関するよくある誤解
よくある誤解①この制度は土地や建物を国に寄付できる新制度なの?
なお、相続土地国庫帰属制度のことを「土地や建物を国に寄付できる新制度」と理解されている方がいらっしゃいますが、違います。
まず、「建物」については国は引き取りません。
また、「寄付」という点も異なります。
「寄付」は、一般的に手放す側と引き取る側の間の契約(贈与契約)により行います。
相続土地国庫帰属制度は国と契約を結ぶのではなく、国の判断で土地を引き取るという制度です。
よくある誤解②この制度は土地を自治体へ寄贈することで必ず引き取ってもらえる制度なの?
土地を手放したい方は、「無料でよいから、土地を自治体に寄付したい」とおっしゃります。
もっとも、自治体が寄付を受け付けるのは例外的な場合です。
例えば、公共事業の予定地や公共道路として既に利用されている土地です。
ただ、こういった寄付への根強い要望があることもあります。
そこから、相続土地国庫帰属制度のことを、土地を自治体に寄付することができる制度(しかも自治体が必ず引き取ってくれる制度)と誤解する方がいらっしゃいます。
しかし、相続土地国庫帰属制度は、引渡し先が国であり、また、引取りの対象は審査に合格した土地です。
そのため、相続土地国庫帰属制度は、土地を自治体へ寄贈することができる制度で、しかも自治体に必ず引き取ってもらえる制度ではありません。
相続土地国庫帰属制度と相続放棄・土地所有権放棄等との違い
相続土地国庫帰属制度は、相続放棄、相続税の物納制度、土地所有権の放棄などに近いところがありますが、これらにはない、次のような特徴があります。
- いらない土地・希望した土地だけを国に引き取ってもらえる。
- 相続税が発生しない場合でも利用できる。
- 国の審査を受ける必要がある。
これまでの制度との違いについては次の記事で解説していますので興味がある方はご参照ください。
【何が違う?】相続土地国庫帰属制度と土地所有権の放棄等の隣接制度の違い
相続土地国庫帰属法の条文を見たい!
相続土地国庫帰属法の詳しい条文は、法務省のサイトやe-GOV法令検索のサイトで閲覧できます。
政令(相続土地国庫帰属法施行令)とパブリックコメントを見たい!
国庫帰属が認められない土地の詳細や負担金の算定方法を定める政令(相続土地国庫帰属施行令)が令和4年9月29日に公布されました。
条文は法務省のサイトから閲覧できます。
なお、この政令とこの政令に対するパブリックコメントの結果については、こちらの記事で解説しています。
余談――相続土地国庫貴族法?相続土地国家帰属法?
相続土地国庫帰属法は、言葉としても非常にわかりにくいのですが、よくある間違いとして、相続土地国庫貴族法と言われたり、相続土地国家帰属法と言われたりすることがあります。
いずれも間違いですのでご注意ください。
もっとわかりやすい名称になるといいのですが、法律って無駄に難しいですよね。
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弁護士 荒井達也
群馬弁護士会所属。負動産問題に注力する弁護士。読売新聞などの全国紙からの取材対応や専門書の出版等を通じて相続土地国庫帰属制度や負動産の処分方法を解説している。
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参考文献
法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」
法務省民事局「相続土地国庫帰属制度について」
村松秀樹他「Q&A令和3年改正民法 改正不登法 相続土地国庫帰属法」(きんざい)
荒井達也「Q&A令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響」(日本加除出版)