解決事例の概要
土地の情報 | とある地方の宅地 |
土地取得の経緯 | 故人の親戚が故人の土地に住宅を建てて住んでいたところ、故人が亡くなった。 故人には子どもがいなかったため、兄弟が相続人になった。 故人の兄弟は多数存在し、姪・甥も少なくなかった。 そのため、依頼者を含め相続人は30名超になった。 |
問題発覚の経緯 | 司法書士の先生にて相続人調査を実施し、相続登記に向けた準備を行っていた。 30名中5名は応答がなく、弁護士が交渉し、4名については説得に成功 ただし、残り1名が認知症により意思無能力であることが判明 |
解決方法 | 遺産分割調停を行い、認知症の相続人は特別代理人の選任申立てを実施 調停にあたり、「調停に代わる審判」の手続を実施 これにより関係者を呼び出すことなく、事件を終了 負動産は地元の方に引き取っていただくことに。 |
解決までの時間 | 相談から約1年 |
はじめに
今回は、弁護士である私が解決した事例の中で、相続人が30名の負動産を遺産分割調停で解決した実例を紹介したいと思います。
依頼者から記事公開について了解を得ていますが、特定を避ける観点から、事案は多少改変してご紹介します。
事案――兄弟相続で相続人が多数に…
ある日、知り合いの司法書士の先生から一本の電話がありました。
私の方で遺産分割を進めていた案件があるのですが、どうも取りまとめができないので、裁判が必要ではないかと考えています。裁判対応は司法書士の対応範囲を超えるところもあるので荒井先生の方で引き継いでもらえないですか?ちなみに相続人は30人います。
「相続人が30人!?」
登記名義人(被相続人)が亡くなったのが昭和40年代で、お子さんがいなかったこともあり、遺産分割がされないまま長期間放置され、相続人がかなり膨れ上がっていたとのことでした。
相続人は、多くて10名程度の場合が一般的かと思います。
そのため、一般の方であれば、相続人30人というのは、すごく多いと驚かれると思います。
このように相続人が多くなるケースの典型例としては、このような形でお子さんがいない方がなくなり、兄弟に相続権が移って、結果的に相続人膨れ上がるケースがあり、今回も、兄弟が相続人になり、結果的に、相続人が多数になりました。
私は、「お世話になっている先生のご紹介だし、頑張るか」と思い、二つ返事でお受けすることにしました。
解決への道筋
依頼者の方と進め方を協議
依頼者に話を聞くと、30名中25名ほどは既に遺産分割協議書を出してくださっていて、対応が必要なのは残り5名ということがわかりました。
ただ、依頼者の方によると、この残り5名の対応が難しいようでした。
どういうことかというと、本件は、基本的に、依頼者の方で、各相続人にご連絡をしていたようですが、連絡を何度しても無視する方、連絡がついたと思ったら、電話で罵倒する方等がいらっしゃったようです。
私が最初に依頼者の方とコンタクトを取ったときには、依頼者の方は、これらの対応で完全に憔悴しきっているようでした。
ここまでの経緯を聞くと、裁判手続に入るのもやむを得ないかと思いましたが、裁判手続になってしまうと何かと時間が掛かりますし、いきなり裁判を提起すると過剰な反応を示す方も出てきます。
そこで、ひとまず、手紙を送りつつ、協議を試み、合意が難しそうであれば、早々に裁判手続に移行するという方向で進めることにしました。
相続人にお手紙を送る
お手紙については、私の方でたたき台を作り、依頼者の方と協議を重ね完成させました。
具体的なお手紙の内容を公開することはできませんが、以下のようなお手紙をお送りしています。
ここで意識したポイントは次の3つです。
①差出人を依頼本人にする
法的な交渉をする場合、弁護士が差出人になってお手紙を送るケースが少なくありません。
弁護士が出てきたということで、相手に差出人の本気度を伝えることができます。
他方で、弁護士が出てきたことで過剰な拒絶反応を示す方もいらっしゃり、対応が悩ましい場合があります。
今回は、依頼者の方と協議のうえ、差出人を依頼者本人としてお手紙をお送りすることにしました。
②法的リスクを丁寧に説明する
次に、現状の法的リスクを丁寧に説明することを意識ました。
一般の方の中で、登記が先祖名義になっている点を踏まえて、「未相続」とおっしゃることがあります。
登記が移転していないので、自分には権利も責任もないので、巻き込まないでくれという趣旨です。
ただ、法的には、先代(被相続人)の死亡により相続が発生し、名義変更の如何にかかわらず、土地所有者としての法的責任が相続人に引き継がれていることになりますので、この点に誤解がないように、現在の状況――相続人が法的権利や責任を負っているということを丁寧に説明するようにしました。
③期限付きの謝礼を提案する
さらに、早期の対応を促す観点から期限付きの謝礼を提示することにしました。
本件では、私が依頼を受けるまで、依頼者の方は、お願いベースで相続書類の提出を依頼していたようです。
対象になっているのは価値のない土地でしたので、これ自体は何も間違っていないのですが、相手からすると、見知らぬ人の見知らぬ土地について書類を出せというのは、「あやしい」「怖い」と感じてしまうものです。
そこで、少しでも前向きに対応していただけるように、謝礼をお支払いする方向にしました。
謝礼の金額については、ルールや相場が明確にあるわけではありませんので、ケースバイケースで検討する必要があるのですが、私の拙い経験からすると、一般的には5千円から1万円程度を提示することが多い印象です。
言い換えると、この程度の金額であれば、依頼者側の負担も小さくしつつ、相手からの反応も得やすいというところになります。
本件でも、依頼者と協議のうえ、この水準に近い金額を提示することにしました。
このお手紙により、5名中3名ほどご返信がありました。
印象としては、無関心で無視していた方が、「土地のリスク」と「謝礼」という言葉で前向きに動いてくれたというところかと思います。
電話で話し合いをする
また、5名のうち、すぐにお返事いただけなかった2名についても、その後、お電話でお話をすることができました。
結論としては、2名のうち1名については納得し、スムーズに書類を出していただくことができました。
なぜ書類を出してくれたのか?という点ですが、電話で相手の不安や疑問をきちんと解決できたからではないかと考えます。
というのも、この手の案件で相続人にご連絡をすると、連絡を受けた相続人は、どうしても疑心暗鬼になり、不安になります。
オレオレ詐欺のように、何かの犯罪に巻き込まれるのではないかと思う方もいらっしゃいます。
そのため、お電話をいただいた際は、こちらの都合を説明するのではなく、相手の話をひたすら聞き、相手が話しつくしたところで、こちらのお願いをするという形でお話しすると、意外と素直に応じてくれることが多いといえます。
今回も1名の方について、お電話でお話を聞きながら最後にお願いをしたところ、無事ご協力いただけるということになりました。
残り1名も連絡があったが・・・
最後に残った1名の方についても、ご親族からご連絡をいただくことができました。
しかし、どうやらご相続人本人は、重度の認知症で意思疎通が不可のようで、入院して10年近く経っているとのことでした。
判断能力が低下した方がいる場合の難しさ
遺産分割協議はあくまでも全員一致による話し合いです。
ひとりでも意思疎通が出来ない方がいると、全員一致の意思決定ができなくなります。
そこで、こういった場合、判断能力が低下した方に成年後見人を選任してもらい、成年後見人から遺産分割の同意を得ることが一般的な対応方法です。
しかし、成年後見人の選任手続にはお金や手間暇が掛かります。
いわんや、値がつかないような不動産(負動産)のために成年後見人を選任するというのは現実的ではないと思われました。
実際、ご家族の方に成年後見制度の話をしましたが、管理すべき財産がない、家族は疎遠・高齢で対応できないなどの理由で成年後見人の選任申立はできないという回答でした。
なお、成年後見人は、裁判所が「あなたは判断能力がありません」と烙印を押すところがあり、利用申請が出来る方が法律で制限されています。
今回の依頼者は親族とはいえ、遠い親戚で申立権が認められませんでしたので、近いご親族にお願いするしかありませんでした。
その近い親族に断られたこともあり、「さて、どうしよう・・・」と困り果ててしまいました。
さて、この難局をどう乗り越えたのでしょうか?
結論としては、遺産分割調停という手続の中で、①特別代理人の選任と②調停に代わる審判という制度を利用し、問題を解決しました。
ただ、ここまでの解説が随分長くなってきたので、具体的に、どうやって問題を解決し方か?については後編として改めてお話をしようと思います。
さいごに
いかがでしたか?今回は相続人が30名の負動産を遺産分割調停で解決した事例の前半部分を解説させていただきました。
もし、この記事が「わかりやすい」「勉強になった」と思った方はSNS等で共有していただけると大変うれしいです。
なお、土地を手放す一般的な方法については、次の記事で解説しています。
【2022年版】いらない土地をあげたい!不要な土地を賢く売る・手放す方法5選
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