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2023年4月から越境した枝を切除できる!?費用は誰が負担?【2021年物権法改正<民法233条>いつから?】

この記事を書いた人

弁護士 荒井達也

群馬弁護士会所属。負動産問題に注力する弁護士。読売新聞などの全国紙からの取材対応や専門書の出版等を通じて相続土地国庫帰属制度や負動産の処分方法を解説している。

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目次

2023年に越境した枝の切除に関するルールが変わります!

「隣から根っこが伸びてきたら勝手に切ってOK。だけど、枝が伸びてきたら勝手に切っちゃダメ。切る場合は裁判が必要」

民法を勉強すると、誰もが不思議に思うこのルール(民法の7不思議)が2021年の民法改正により変わることになりました。

新しいルールの適用開始時期(施行時期)は、2023年(令和5年)4月1日です。

今回は、このルールに関する改正の内容を解説したいと思います。

なお、今回のテーマはYoutubeでも解説させていただいてますので、活字より動画が良いという方はこちらをご覧ください。

新しい枝の切除に関するルール(民法新233条)――切除のための特則手続等の追加

 今回の改正により、どのようにルールが変わるのでしょうか?

 改正法を理解するには、改正前後の条文を比較してみるとわかりやすいです(下線部が変更部分)。

旧 法(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第二百三十三条 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
NEW!!
改正法
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第二百三十三条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
 一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
 二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
 三 急迫の事情があるとき。
4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

 第1項は文言の調整ですので、重要なのは、民法新233条2項と同条3項です。
 なお、こちらからも分かるとおり、根に関するルールは旧法と同じです。

①共有の竹木の取扱い――単独で切除可(民法新233条2項関係)

まず、改正法により、隣地の竹木の枝が境界線を越える場合において、竹木が共有のときは、各共有者は、その枝を切り取ることができるという規定が設けられました。

この規定によって、越境されている側の土地の所有者としても、共有者の一人に対し、枝を切除させることについての給付判決を得れば、代替執行の方法により強制執行をすることができるようになります。

従前は共有者全員を名宛人とした判決(債務名義)を取得する必要があったため、改正法により、手続が軽くなります。

ただし、他の共有者が積極的な妨害行為をしている場合はその妨害行為を除去するための債務名義が必要です。

②越境された側で切除可能なルールの導入(民法新233条3項関係)

次に、改正法では、民法233条1項を維持しつつ、次の3つの場合には、越境された土地所有者の方で、越境した枝を自ら切り取ることができるという特則が追加されました(民法新233条3項)。

  1. 枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
  2. 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
  3. 急迫の事情があるとき。

この規定によって、隣地が所有者不明土地であっても、適切に対処することが可能になります。

ただし、一つ目の催告について、隣地が共有地である場合は共有者全員に催告する必要があり、相続未登記で相続人が多数いる場合は手続が煩雑です。

こういった場合は、上記①の方法により切除を模索することが合理的な場合も出てくるでしょう。

伐採費用はどうすればよい?誰が負担?

法律に、伐採費用の負担については明記されていません。

もっとも、枝が越境している状態はある種の不法占拠状態です。

また、越境していた枝を代わりに切り取ることで、竹木の所有者が本来負っている枝の切除義務を免れることになることになります。

これらを踏まえると、基本的に、切取りの費用を竹木の所有者が負担することになります。

もっとも、支払いを拒絶された場合、裁判をして請求金額を確定させる必要がありますので、実際に枝を切る際は最悪費用が持ち出しになる覚悟をしておいてください。

切った枝はどうすればよい?

なお、法務省の担当者によると、新民法233条3項に基づいて切り取った方は、その枝の所有権を取得し、その枝を自由に処分することができるそうです。

【要注意!】実際に切る場合の留意点

なお、今回の改正で枝が切りやすくなりますが、何でもかんでも切っていいわけではありません。

具体的には越境で何の実害もないのに、勝手しまうと違法になる可能性があります(いわゆる権利の濫用)。

また、土地の境界がはっきりしない場合はそもそも越境があるのか?ということ自体争いになる可能性もありますので、その点も注意が必要です。

隣人に木を切ってほしい場合の手紙の例文

今回の改正を踏まえて、隣人に枝を切ってほしい場合、どういったお手紙を送ればよいでしょうか。

私の方でサンプルを作成いたしましたので、こちらを参考にお手紙を作成してみるのも一案です。

なお、このサンプルは、あくまでも記載例の一つであり、実際に通知書を送る際は、●部分や【】部分以外を含め、ケースバイケースで内容を修正する必要があります。

本書の利用によって何らかの損害が発生した場合でも、当事務所は一切の責任を負いませんので、その点は最大限注意してください。

不明点がある場合は、そのまま進めるのではなく、弁護士に相談することを強くおススメします。

その前提で、以下では記入方法を少し細くします。

①作成日
発送日記入してください。
②宛名
枝の所有者を書きます。基本的には土地の所有者と同じでることが多いです。
③差出人
越境されている側の土地の所有者をご記載ください。所有者の親族等は基本的にダメです。
④タイトル
通知書としましたが、「催告書」などのタイトルでも問題ありません。
⑤第1段落
枝がある土地、越境されている土地、越境している枝、越境部分などを具体的に特定してください。
疑義が生じないように地図や図面、写真などを添付することが望ましいです。
⑥第2段落
越境により生じている悪影響を具体的に書いてください。
何の実害もないのに切除を求めると権利の濫用として違法になる可能性があります。
⑦第3段落
所有者が明確な場合で、かつ、単独所有者の場合の文例です。
共有者が他にいる場合や所有者や相続人が不明な場合や行方知れずの場合は別途対応を検討する必要があります。
期限は1か月以内としましたが、枝の切除に時間を要する場合は長めの期限を設定することを推奨します。
1か月以内に切除が難しい場合はその旨を連絡するよう記載していますので、連絡があればその点を踏まえて切除日を決めてください。
第三者から見ても、十分切る期間はあったといえる程度に期間を確保してあげる方が問題が少ないです。
⑧第4段落
切除のために隣の土地に立ち入る場合は日時等を連絡する必要があります。
ただ、お隣さんが立入りを拒否していたりする場合は不法侵入になる可能性がありますので、その点が懸念される場合は自分の土地から越境部分を切る必要があります。
お隣さんの土地が空き地となっていて実際に使用している者がおらず、隣地の使用を妨害しようとする者もいないケースだと立ち入っても問題が少ないものの、懸念がある場合は弁護士に相談してください。
⑨その他
後日、手紙を送った送ってないで争いになることを避けたい場合は、内容証明郵便を利用することも一案です。
利用しない場合でも、いつどのような内容の手紙を送ったかを証拠化し、後で疑義がでないように対応することが必要です。

 

管理が難しい場合は、手放すことも要検討

今回解説した新しいルールにより越境した枝を切りやすくなりますが、他方で、枝の所有者(多くは遠方に住んでおり、空き家などがある方)にとっては、思わぬ費用を請求される可能性があるということになります。

使わない、管理が難しい不動産(負動産)については早期の処分をおすすめします。

この点については、次の記事も参考にしてください。

この記事を書いた人

弁護士 荒井達也

群馬弁護士会所属。負動産問題に注力する弁護士。読売新聞などの全国紙からの取材対応や専門書の出版等を通じて相続土地国庫帰属制度や負動産の処分方法を解説している。

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